【インタビュー】大手メーカー3社編 「低炭素革命」─行動へ 「原子力ビジネス」と向き合う(3) 三菱重工業 取締役 常務執行役員 原子力事業本部長 澤 明氏に聞く 仏アレバと「戦略的部分提携」 APWR軸に「自主独立」が基本

―三菱重工は、長年密接な提携関係にあった米国のウェスチングハウス(WH)社を2006年に東芝が買収して以来、原子力事業の世界戦略をどう再構築したのか。

 三菱重工にとりWHは、日本の原子力開発の黎明期においては加圧水型軽水炉(PWR)の先生であり、途中からはよきイコールパートナーだった。それだけに、WHの買収交渉には当社も積極的に参加したのだが、残念ながら買収額が私どもの考える経済合理性の範囲をはるかに超えた。そこで三菱重工が選択した世界戦略は、「自主独立路線を歩む」を基本に、必要な分野においてはフランスのアレバと提携を進めるというものであった。アレバとは、あくまで対等な立場での『戦略的部分提携』であり、両社は良きパートナーであると同時にコンペチターの関係にある。

当時、われわれの技術を総括した際、PWRでは、すでに日本国内全23基を建設した実績があり、泊3号機は建設中、さらに、敦賀3、4号機の新型APWRになると、これはもう三菱重工独自の国産技術で、基本設計から詳細設計・プラントエンジニアリング、ものづくり、メンテナンスまで含めて、すべて自力でやっていける。しかも、米欧先進国における原子力発電プラントの規模は今後、170万kW級の大型炉がコストパフォーマンス的にはもっとも優位で受け入れられやすいので、まず米国向けに大型US‐APWRを開発・展開することにした。さらに、現在その欧州向け50ヘルツ版としてEU‐APWRを営業展開中だ。

一方、将来の原子力発電のグローバル展開を想定すると、建設費の絶対額および送変電容量の関係では100万kW級の中型炉も需要があると分析していたところ、ちょうどアレバも同じような考えでいることが分かり、それなら個別に取り組むよりリソースや資金を共有して共同開発する方が合理的だと意見が一致した。それが110万kW級中型戦略炉、ATMEA1だ。

当初は、三菱重工とアレバはそれぞれ基本設計、詳細設計、ものづくりができる一貫プラントメーカーとして『似た者同士』なだけに、一緒に何かをつくるとなると、お互い自分の方が優れていると主張し合ってうまくいかないのではないかとの懸念もあった。しかし、最初にデザイン等を両社でどのように分担するかのフレームワークを決め、さらに、それぞれが最新の技術を出し合いながら今日に至っている。現在、基本設計の最終段階に入り、来年から営業を開始する予定で、当初の懸念は杞憂であった。

―中国、インド市場についてはどうか。

 中国は原子力発電所の国産化を基本政策に掲げているので、WHのAP1000あるいはアレバの欧州型PWR(EPR)にしても現在建設している一連のプラントが完成すれば、それ以降プラント輸出という形はありえないと思う。したがって、三菱重工としては原子力機器や部品の供給を主眼に協力していくことになろう。

一方、インドは、将来非常に有望なマーケットだが、核拡散防止条約(NPT)非加盟国なので現時点でビジネスはできない。日本政府の動向を見守っているところだ。

―ところで、アレバとは中型炉に続き原子燃料分野でも提携したがその狙いは。

 日本国内の原子燃料市場を見ると、PWR燃料では三菱重工・旧三菱原子燃料(旧MNF)および原子燃料工業(NFI)があり、BWR燃料ではグローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)とNFI、それに加え、P、B両方にアレバの輸入燃料が供給されている。原子燃料は価格のみならず、信頼性等がトータルで評価される。それだけに、原子燃料の分野は、今後、国内市場も含めて極めて競争が熾烈になると認識してきた。

そうした視点で見直すと、原子燃料の設計、販売、営業を三菱重工が行い、製造を旧MNFが担当、その旧MNFに対する材料の供給は三菱マテリアルが行う多層構造≠改め、今年4月に、三菱重工35%、三菱マテリアル30%、三菱商事5%にアレバが30%出資し、旧MNFを再編・強化した。

新たにアレバに資本参加してもらったのだが、MOX燃料はアレバのメロックス工場から手当てすることになっている。日本からのきめ細かい工程管理や要求に関し、メロックス工場にクイック・レスポンスを求めるためにも、アレバ自身にMNFの株主になってもらい、MOX燃料をMNFから供給する方がよいのではないかと考えた。

また、アレバの参加に合わせて、アレバが日本国内に持っている原子燃料の営業権を引き継ぐとともに、燃料の再転換分野においてアレバの固有技術である世界一進んだ技術といわれるドライ・コンバージョン・プロセス(DCP)を、MNFに導入する枠組みを構築した。

さらに、われわれが米国でUS‐APWRの燃料を供給する際、初装荷燃料はMNFが供給し、日本から運ぶことを考えているが、その後の取替燃料の製造については、米国に合弁会社を設立する方向でアレバと調整中である。

―では当面の主戦場と言われる米国で、US‐APWRを看板に掲げる三菱重工は原子力発電所の設計・調達・建設(EPC)まで一貫して担当できるプラントメーカーとして認知されたのか。

 三菱重工は米国市場でのビジネス展開にあたり、2006年に現地法人MNES(ミツビシ・ニュークリア・エナジー・システムズ)を設立、US‐APWRの営業活動を開始した。従業員数は現在110名(80名がエンジニア)で、年内には約200名に増員する。また、170万kW級大型戦略炉US‐APWRについては、ルミナント社向けに2基の受注が内定、現在、標準設計認証(DC)および建設運転一括認可(COL)の審査も順調に進行中で、12年末までに正式に取得できる見通し。

さらに、今年3月にはGE、アレバ、WHに次ぎ、日本メーカーとしては初めて米国原子力エネルギー協会(NEI)の原子力プラント設計者としての会員資格認定を受けた。こうした一連の実績の積み重ねにより、米国内での三菱重工に対する原子力サプライヤーとしての評価、地位をしっかり確立する事ができたし、日本メーカーの中では最先端を歩んでいると自負している。

US‐APWRのプラントとしての特徴は、燃料経済性に非常に優れた14フィート長尺燃料の採用によりウラン消費量を既設炉に比べ16%程度少なくしたこと、高性能蒸気発生器、70インチ級最終翼を備えた低圧タービンの採用による170万kW級の電気出力の実現などである。

また、計装制御は総合デジタル系の採用を予定、これも今年12月に運転開始予定の泊3号機で導入済みなど、プラントの基本性能と信頼性に優れていることが大きなアピールポイントだ。

一方、米国での仕事の難しさ、リスクについても十分認識しながら作業を進めている。例えばプラント建設の契約形態ひとつとっても、ユーザー側はメーカーに対して総額固定の一括請負契約(ランプサム)で発注したがるが、現地の建設会社や下請け企業はコスト&フィー契約でしか受けない。するとコスト・オーバーランや納期遅延のリスクは全てメーカーの負担となるためビジネスとしての成功例はほとんどないと言っても過言でない。今この点について、米国でも受注者だけがリスクを負う形態では成り立たず、特に原子力発電所のような巨大・巨額プロジェクトについては、ユーザーとメーカーがリスクをシェアする「オープンブック方式」が模索されている。

その際、コスト・オーバーランをいかに避けるかは設計の完成度・物量(BQ)の徹底的精査がカギを握っている。現地工事の一つひとつの溶接個所や米国人労働者の労働効率、細部にわたる配管、部品・製品単価など全部把握した上で、それをBQに入れ込むことができるか、つまり、設計の完成度が今後の力の差のバロメータになる。

詳細設計まで含めてプラント設計をすべてやりきり、設計の完成度を上げているメーカーが生き残るのではないか。

―三菱重工は世界をリードする「原子力総合カンパニー」を標榜しているが、沸騰水型軽水炉(BWR)に興味はないのか。原子力ビジネスの将来展望・理念を聞きたい。

 われわれは最初に述べたように、原子力事業は三菱重工本体のコアパーツであり自主独立を基本にしながら世界でイニシアチブをとっていく方針。戦略的提携はあっても、他社に吸収されることはあり得ないとの誇りと自信、気概に揺るぎはない。またBWRというか、GEとの関係では複合発電の蒸気タービン開発で提携し、さらに原子力タービンについても今その可能性を探っている。そういった中から、常にいろいろな可能性も視野に入れつつビジネス展開を考えていく。今後、世界はさらにダイナミックに動くだろうが、基本軸はぶれずに、かつ常に柔軟な発想で臨んでいくことが「低炭素革命」時代の経営理念だろうとの思いでいる。

(原子力ジャーナリスト 中 英昌)


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