【インタビュー】政策編 「低炭素革命」─行動へ 「原子力ビジネス」と向き合う(4) 原子力の「国際協力体制」確立 メーカー3社はコーディネーターたる実力を 経済産業省 資源エネルギー庁長官 石田 徹 氏に聞く

―経産省は総合資源エネルギー調査会原子力部会・国際戦略検討小委員会(小委)で原子力発電について国際動向の分析およびわが国の国際対応のあり方を検討、今年6月に報告書をまとめるとともに「国際原子力協力協議会」(協議会)を設立した。これで、原子力国際協力のオールジャパン体制が確立したのか。

石田 原子力発電は、わが国では発電過程でCOを排出しない「低炭素電源」の中核であり、供給安定性と経済性に優れた準国産エネルギーと位置づけている。中長期的には化石燃料の枯渇が目に見えている中、基幹電源として重みを増している。こうした認識の下に経産省では今年6月に「原子力発電推進強化策」をまとめ、2020年に原子力発電比率を40%程度とする目標を掲げ、そのためには既設炉の稼働率を主要利用国並みの80%程度に引き上げ、また「18年度までに9基」の新増設計画を着実に推進するなど、さまざまな施策をパッケージで打ち出した。

一方、国際的に見ても欧州をはじめ「原子力回帰」が一段と鮮明になり、またアジアや産油国等における原子力導入・新規建設機運が具体化しつつある。これまでの原子力冬の時代≠ノも途切れることなく原子力開発を進めてきた日本の技術力、安全運転管理の経験・ノウハウを移転してほしいとの要望が強い。これに応えると同時に、日本の国益追求、産業力強化の観点から、小委でその戦略と具体的取組を検討してきた。

特に、海外で原子力を新規に導入・拡大しようとする国の中には、必要な人材や制度的基盤が十分でないところが多く、日本の協力に大きな期待を寄せている。そうした相手国のニーズに応えるためには、日本の民間企業や原子力関連機関がばらばらに対応していたのでは限界がある。そこで、官民一体となり関係機関・関係府省で協議会を6月に立ち上げ、相手国のニーズ等の情報を共有し、それらに誰がどう効率的、総合的に応えていけばよいか国全体としての戦略の下で連携して臨む枠組みを構築した。

また、これに先立ち3月には日本原子力産業協会を中心に、産業界の力で原子力国際協力の中核的実施機関の役割を持つ「原子力国際協力センター」(センター)が設立された。ここが有効に機能するためにも相手国が何を期待しているのか適時適切な情報が必要である。リソースもセンターだけでは限られており、各方面からの協力を仰ぐ必要がある。協議会にはセンターに対する「司令塔」の役回りも期待しており、これにより相手国のニーズに応じてオールジャパンで対応できる体制を構築できたと考えている。

―「オールジャパン」にはビジネス支援の視点もあるのか。

石田 個別のビジネスの世界になると国内的にも競争があり、協議会において調整するという性格のものではなく別次元の話だ。原子力ビジネス界では、日本には東芝、日立製作所、三菱重工業という有力な炉メーカー3社があり、近年の国際的な原子力産業再編においてもキープレーヤーとして極めて有力なポジションを占めているように思う。

ただ海外を見ると、仏アレバをはじめ国営で「一国一社」体制でビジネス外交を展開するなど、攻勢をかけているところもあり、国際原子力ビジネス市場でそうしたところと渡り合っていく難しさはある。日本では炉メーカーも電力会社も純粋な民間企業なので、ビジネスの主要プレーヤーはあくまで民間である。しかし、原子力ビジネスの相手は国ないし国に準ずる機関が多いので、日本としても国の関与は絶対的に必要になる。例えば、相手国に協力することになれば、原子力協定締結が前提条件になるし、人材育成、原子力制度基盤の構築等も企業単独では対応が難しいため、国としても民間ビジネスをサポートしていきたい。

従って、オールジャパンとは、事業者がプラント建設成約に向けてひとつになるという意味ではなく、いろいろな役割を担う日本の各プレーヤーが、それぞれうまく連携し、国全体として総合力を発揮し、国際協力を進めていく必要があるという意味で「オールジャパン」と言っている。

―「低炭素革命」が理念から行動のときを迎え、世界規模で原子力発電所新増設計画が具体化しつつある。日本の原子力ビジネス展開・国際貢献の要と見られる「ものづくりサプライチェーン」についてはどうか。

石田 日本の原子力産業は、国内電力会社のニーズに対応する形でメーカー、サプライヤーが協力してきた三位一体の図式だった。だが、海外に原子力協力ないしビジネスを進めていく場合には、国内と違ったニーズにも応えていく必要が出てくる。例えばアレバはウラン資源開発、燃料加工から原子炉の設計、建設、運転に加え、使用済燃料処理等のバックエンドまで含めてすべて一貫した体制でサービスを提供できるが、日本はそこが個々に分断されていたり、あるいは国内ではまだ完結していないのが現状だ。ここをどういう形で一元的に組み合わせ、一貫サービスを海外ユーザーに提供できるかが今後の原子力ビジネス成約を左右するカギとなる。

具体的に言えば、原子炉の部分でも炉メーカーだけでなく、さまざまな部材・素材メーカーの活躍が重要になる。土木、エンジニアリングを含めて海外で工事する場合の技術者の確保や適切な工程管理も重要であるし、さらには燃料供給もニーズがあるだろう。

こうした今後の原子力国際ビジネスで中心となるのはやはり炉メーカーだろう。炉メーカーが電力会社やエンジニアリング会社あるいはゼネコンの協力を取り付け、そこに燃料供給者も加え、全体をしっかりまとめ上げる「コーディネーター」としての力をつけていくことが一番肝要だ。単に自分の直接の守備範囲だけしっかりこなしていればいいわけではない。

また、日本の原子力産業のものづくりの強さは炉メーカーだけでなく、プラントを構成する素材、部材等のサプライヤー群に支えられている部分が大きい。そういう力をいかに活用できるかが大きなカギとなってくる。この点は小委でも議論され、サプライヤーに対する国の支援を強化すべきとの提言を受け、コア技術に対する国の支援制度を創設した。今後の原子力国際展開では、そういう企業群を含めてトータルで力を発揮できるような体制を組んでいくことが大事だ。

炉メーカーも最近はそうした大きな国策的視点に立ち、考え、行動するように変わりつつあると実感している。ただ、日本企業による原子力プラントの海外一括受注・建設実績はこれまでゼロなだけに、具体的な成果を挙げていくのはこれからだ。そして今まさに米国内でファーストウエーブ(第一波)と呼ばれる約30年ぶりの原子力発電所新設計画、あるいはベトナム等アジア地域や湾岸諸国での原子力導入案件が具体化しつつある。これらの成否が、オールジャパンの総合力、真価を問われる試金石といえよう。

エネルギー問題は国家安全保障の基本 民主党政権ともしっかり議論し中長期的視点で着実に取り組む

―ところで、日本国民は先の総選挙で民主党への政権交代という歴史的変革を選択した。また、ポスト京都のCO排出削減の枠組みを決める年末のCOP15までに主要国間で具体的合意ができるか不透明な面もある。原子力の位置づけ・政策への影響はどうか。

石田 まず、COP15で米国、中国を含む世界主要排出国がCO排出削減目標・行動の枠組みで合意できるかという足元の話と、エネルギー安全保障、温暖化問題への意識の高まりで原子力回帰が世界的に進展していくこととは一応分けて考えるべきだろう。COP15での合意いかんにかかわらず、もはや原子力抜きで温暖化問題に対応するのは現実的には不可能になっているだけに、原子力の導入機運は世界的に高まっていこう。このトレンドは、このところの金融・経済危機の影響下でも大きくは変わらないと言える。

民主党のマニフェストでは「原子力は安全を第一としつつ国民の理解と信頼を得ながら着実に取り組む」としている。原子力そのものを推進していく基本政策に変更はないと思っている。いずれにしても、エネルギー政策は日本の国家安全保障にかかわる問題で、かつ中長期的視点から取り組みが求められている分野であり、短期的視点で軸足を動かすことにはなじみにくい。新政権下においても必要な議論を尽くしながら着実に推進していけるよう努力していきたい。(原子力ジャーナリスト 中 英昌)(このシリーズは今号でおわり)


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