米国 オバマ政権の原子力政策 DOE 研究開発に重点

米国で1月に民主党のオバマ政権が発足して約7か月が経過したが、同政権は地球温暖化やエネルギー安全保障における原子力の役割を評価しつつ、放射性廃棄物処分と核拡散問題の解決に向けて研究開発に重点を置きながら、安全で着実な原子力発電の推進を標榜しているとみられる。最近の米国の原子力政策を、チュー・エネルギー省(DOE)長官の発言を中心に、地球温暖化防止に係る法案を審議中の議会動向とともに紹介する。(原産・国際部まとめ)

■研究開発に重点

6月3日、チュー長官は、下院エネルギー水資源小委員会での2010年度予算審議公聴会で証言した際、原子力は「クリーンな」ベースロード電源であるとし、「米国のエネルギー・ミックスの中での割合を現状の20%よりさらに増やしたい」と考えていると述べた。

さらに同長官が、「使用済み燃料のリサイクルと次世代炉に目を向ける必要がある」と述べたことから、今後はそのための研究開発に重点を置くとみられる。DOEが要求した2010年度予算では、次世代炉に関する予算、核燃料サイクル研究開発に関する予算は、ともに約1.9億ドルと、それぞれ前年度比6%増、32%増となっている。

またDOEは5月6日、71件の原子力研究開発プロジェクトを立ち上げ、全米31の大学や研究機関に対し、3年間で総額4400万ドルを支出する計画を発表した。チュー長官は、「原子力は、ゼロ・カーボンのエネルギー源として、エネルギー自立と地球温暖化防止に向け、我々のエネルギー・ミックスに不可欠である」と述べた。

■ブッシュ前政権の原子力政策見直し

このように、オバマ政権は原子力発電の重要性を認識しつつ、ブッシュ前政権の原子力政策の見直しを図っている。ユッカマウンテンで進めていた使用済み燃料の最終処分場計画については、選挙中に公約していたとおり打ち切りとされた。2010年度予算案において、放射性廃棄物管理プログラムに関する予算は、前年度比約1億ドル減の1.9億ドルのみとなった。これは現在、原子力規制委員会(NRC)が行っている、処分場の許認可審査に対応する活動費のみで、用地取得、運送費、追加的エンジニアリング等、処分場建設のための予算はすべて削除された。今後は、新たに専門家委員会を立ち上げ、2年程をかけて、再処理の可能性を含め、代替案を検討することとした。予算案には、そのための費用として500万ドルが計上されている。

また、「国際原子力パートナーシップ(GNEP)」についても、オバマ政権は4月、「国内部分」である、使用済み燃料再処理施設および高速炉の建設についてキャンセルを決めた。しかし、米国は今後もGNEP参加国との国際協力を通じて、先進的な核燃料サイクルの長期的な研究開発を行う「国際部分」は継続する。

■原子力発電所新規建設への課題

原子力発電所の新規建設については、民間企業の財政的リスクを軽減するため、2005年エネルギー政策法に基づき連邦政府が債務保証をすることとなっているが、現状の債務保証プログラムの予算は185億ドルと、3〜4基分をカバーする程度に過ぎない。2010年度の予算案においても増額されなかったことから、産業界は失意を表した。ただ、6月3日の下院エネルギー水資源小委員会で、議員から今後資金増額を求めるかどうかとの質問を受けたチュー長官は、「それは理にかなっていると思う」と答えた。

また、DOEの債務保証申請審査作業が大幅に遅れている。そもそも、NRCによる新規原子力発電建設に対する建設運転一括許可(COL)が下りなければ債務保証は得られないが、その審査自体が大幅に遅れており、少なくとも10年一杯かかるとみられている。

■温暖化対策・エネル ギー関連法案の議会審議

今年12月にコペンハーゲンで開催されるCOP15までの成立を目指して、米下院は6月26日、温室効果ガスの大幅削減を目指す「米国クリーンエネルギー・安全保障法案(ワックスマン・マーキー法案)」を、219対212の僅差で可決した。この法案には、温室効果ガスの排出量を2020年までに05年比で17%、50年までに83% 削減する目標が盛り込まれ、そのために排出量取引制度の導入や、電力会社は再生可能エネルギーの割合を引き上げることなどが定められている。

この法案において、原子力はクリーンエネルギーとして肯定的に捉えられている。「原子力と先進的技術」の項目においては、魅力のある投資環境を提供するため、「クリーンエネルギー開発局(CEDA)」を創設する条項が盛り込まれた。CEDAは、直接融資、信用状の供与、融資保証といった金融支援を行うこととされている。同法案は下院を通過後、現在、上院で審議中である。

しかし、8月中旬から約1か月間の休会を挟み、実質的な審議は9月下旬に行われる予定であることから、年内の通過は不透明となっている。ただし、このような議会の審議が進む中で、オバマ政権の原子力に対する態度が明確になっていくとみられ、今後の動向に注目したい。


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