【シリーズ】原子力発電「支えの主役」コア技術編(1) 岡野バルブ製造 主蒸気逃がし安全弁高度化 BWR「最後の安全弁」 発電大容量化対応が課題自分の産んだ子は生涯面倒を見る―。原子力発電用一次系大型バルブで圧倒的シェアを持つ岡野バルブ製造(オカノ)の製品は、すべてオーダーメードの特注品。一品ごとに材料から製造加工さらにメンテナンスまで一元的に手がけ、メンテナンスで得た情報を開発現場にフィードバックし技術改良・開発に結び付けている。いわば血統書付で嫁入り先から役割まですべて決められ、しかも出地・キャリアはカルテとしてデータ保存されている。「バルブのライフサイクルを通して社会に貢献することにわれわれの存在価値を見出そう」を社是とする自負が、これまで数々の国産初製品を生み出してきた。 今回、資源エネルギー庁の原子力技術利用高度化支援対象に選定された「主蒸気逃がし安全弁」もその1つ。1973年に沸騰水型軽水炉(BWR)用国産第1号製品として開発、中国電力島根1号機に納入し世界5か国で特許を取得。同安全弁はBWRに固有なもので、圧力容器の主蒸気管に最近では1ユニット当たり16台から18台設置され、原子力発電所の安全運転に非常に重要な役割を持つ。その仕組みは、自動で蒸気を逃がす安全弁としての機能と駆動機で蒸気を強制的に逃がす2つの機能を組み合わせ高機能化している。 新たな開発テーマに選定された安全弁も、この基本的構造、仕組みに変わりはないが、今後の原子力発電所の高出力・大容量化に対応できるよう技術、製品を高度化していくことが課題だ。現在の最新のタイプは国内の柏崎刈羽6、7号機(ABWR、135万kW)だが、将来的には170万kW程度が主流になると想定されている。発電容量が増えれば発生する蒸気量も増え、安全弁自体の口径も大きくなり、弁を作動させるバネも含めて大型化してくる。 原子力発電所で何らかの要因で核反応が過度に進むと圧力容器内の蒸気圧力が設定以上に上昇する。このときに、異常・余分な蒸気を外部に逃がして圧力容器全体の圧力を下げる過圧防護の役割を持つ。日本国内に現在32基のBWRが稼働、中には40年近く運転されている炉もあるが、この主蒸気逃がし安全弁が作動した例は過去に一度もない。「私どものバルブは本来作動してはいけない、発電所全体を守る最後のバックアップバルブ」である。 一般には、「発電出力増加」という一言で片づけられるが、出力が上がるとポンプの出力から配管系統、さらにそれに見合ったバルブ機能等をさまざまな形で複合的に組み合わせ、全体的に機能するようにしなければならない。また、そのバルブが間違いなく決められた蒸気量を逃がす機能を持っているかどうかの容量認定試験も受けなければならない。しかも、このような試験設備は日本国内には無く、米国と欧州に各1か所ある。オカノでは20年前に容量認定を取得したが、その後の規格変更に対応すべく米国に持ち込み新たに容量認定を取得する計画だ。 オカノでは今回の技術高度化支援を受けたのに伴い、「主蒸気安全弁プロジェクトチーム」を編成、ハード・ソフト両面で今、粛々と作業を進めている。原子力用バルブは完全な受注生産品で、製品が抜きん出ているからといって大量生産し、世界同時発表・発売できるような一般消費財産業とは全く異なる。岡野社長は「われわれなりに何があろうと長い目で黙々といいもの、必要とされるものを作ってきた。今回の技術高度化支援は、そうした地道な努力および原子力産業そのものが1つの価値観、存在価値をもって認められたという意味で、全社員にとってものすごいインパクトになっている。これでさらに技術を磨き、世界に通用するものづくりメーカーとしての地歩を築きたい」と決意も新た。 「政権が代わっても「ものづくりの基本」は変わらない。日本のプラントメーカー3社は世界最高の技術を持っているし、今や必死になって国際舞台で原子力ビジネスに取り組み始めた。それはわれわれサプライヤーにとっても幸せというか大変心強く、種々の課題を克服して是非お役に立ちたい。ただ、海外での生産を考えるのは次のステップ。まず、われわれの製品が海外で採用されるかどうかに今、最大限の努力を傾けている。その実績ができた上で検討する」と、岡野社長の信念に裏付けられた堅実経営に揺るぎはない。(特別取材班) |
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