【シリーズ】原子力発電「支えの主役」コア技術編(2) 日本製鋼所 超大型鍛造部材の製造技術 650トン・インゴット試作 設計の可能性を広げる

世界の大型原子力部材の相当部分を供給してきた実績を持つ日本製鋼所(佐藤育男社長、本社・東京都品川区大崎)は、その技術力には絶対の自負を持っている。

世界の原子力発電所は、立地点の希少さに加えて大規模な設備産業でもあるため、単機出力の大型化は極めて速かった。

日本の軽水炉では日本原子力発電の敦賀1号機(BWR出力35万7000kW、70年3月運開)から東京電力の柏崎刈羽原子力発電所6号機(ABWR、出力135万6000kW、96年11月運開)まで、約27年間に約4倍の単機出力となっている。

それに伴って、主要機器の大型化も進み、時代と共により高い品質向上や、設計の可能性を広げたいという要求もだされてきた。

これらの要求に応える形で同社の北海道にある室蘭製作所では、原子炉圧力容器や蒸気発生器(SG)、蒸気タービン・ローター・シャフトなど鍛鋼製の大型部材を製造するため、鋼塊(インゴット)を製造する技術、1万4000トン水圧プレス機などを用いた成型加工技術などを自ら開発してきた。

今では同社では世界最大の600トン・インゴット一塊りから、これらの技術を駆使して、欧州加圧水型炉(EPR、出力160万kW級)の圧力容器の配管接続部分、新型BWR(ABWR、出力140万kW級)の底部の一体型インターナル・ポンプ接続部分などを、溶接線がないドーナツ状の一体構造体として、製造することができる。

今回、経済産業省の補助事業を受けて同社では、今後、さらに大型の出力170万kW級の圧力容器部材や蒸気タービン・ローター・シャフトの製造技術の開発を行う。いまのままの製造装置・技術でも170万kW級の圧力容器は製造可能ではあるが、今後、配管ノズル部の長尺化など、プラントメーカーから要求がでてくる可能性が高いため、より大きなインゴットが必要になるものと考えられる。

その実現のために、具体的には自動車のボディー用鋼板を打ち抜いた端材などの高級なスクラップを電気炉で何回かに分けて溶かし、それを真空状態の中で、いまよりも大きな一つの650トン・インゴットに仕上げなければならない。ちなみにこの電気炉の溶融能力は高く、短時間で溶融できるため、工場に1台しかないにも関わらず、繁忙を極める同工場であっても、いままでは夜間の安い電力料金帯での稼働で間に合っていたものが、今後は通常料金帯での稼働も計画せざるを得なくなってきた。

より大きなインゴット製造には、インゴット・ケースの大型化、加工のための各種装置の開発、熱処理の最適化などを行って、いかにして不純物の少ない均質化した高品質のインゴットを製造するかがポイントとなる。

計画では、今年度約20億円(うち補助率3分の2、約13億円)をかけて、製造技術を開発し、実際の650トンインゴット1つを試作する。10年度にそのインゴットを真半分に切断し、内部均一性の観察、11年度には実際にタービン・ローター・シャフトを試作し、真半分に切断してやはり内部均一性の確認などを行うことにしている。

原子力発電所の大型化・品質向上などを目指し、原子力発電の基盤技術をより確かなものにしていく努力が、官民を挙げて続けられている。 (特別取材班)


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで