【シリーズ】原子力発電「支えの主役」コア技術編(3) 荏原製作所 ECCSポンプ実用化開発 万一の備え、緊急炉心冷却 さらに信頼性向上めざす

世界の主要国で、原子力ルネッサンスが実際に動き始めている。

荏原製作所でも、中国から原子力発電所用の大型ポンプを次々と受注した。山東省の海陽原子力発電所1、2号機(AP1000、各100万kW)用の海水循環水ポンプ2ユニット計30億円。両炉は東芝の子会社の米ウェスチングハウス(WH)社が主契約者で受注し、1号機は14年から発電を開始する予定。

また広東省の昨年12月に建設工事が始まった陽江原子力発電所1〜4号機(CPR1000、100万kW級PWR)用の二次系給水ポンプ4ユニットを計40億円で受注済み。CPRは仏アレバ社の技術を基礎に中国が開発した炉型で、1号機は13年の運開を目指しているもの。中国は同1、2号機の国産化率を60%、同3、4号機を同100%としており、同社では、山東省にある70%出資の従来、火力発電所用のポンプを製造してきた子会社工場の生産能力を増強して対応する方針で、試験設備なども導入する計画だ。

米国の原子力発電所でも、東芝が日本企業として初めて海外での主契約者となったサウス・テキサス・プロジェクト(STP)3、4号機(各140万KW級ABWR)用のポンプ類でも受注を目指している。

このように大型機器の受注がなされつつある中で、同社は経済産業省から、今年度から原子力産業の技術力の強化を図る補助事業の「戦略的原子力技術利用高度化推進事業」として、「非常用炉心冷却システム用ポンプ実用化開発」が採用された。

非常用炉心冷却システム(ECCS)は、原子炉系の事故で炉心冷却水の喪失が起こった場合、圧力容器に水を注入することにより、炉心を冷却して破損を防止する工学的な安全装置。開発支援の対象のポンプ(ECCSポンプ)は、この水の注入に用いられる極めて高い信頼性を要求されるポンプだ。

ECCSポンプは使用条件として、吸い込み流体の極めて早い温度変化(ヒート・ショック)にさらされて運転される場面があるが、その状況下での性能や機能維持が要求され、同社としては熱変形シミュレーションや実機試験などを駆使する先進技術をさらに磨くことにしている。

くしくも同社では、現在の主力工場である羽田工場(東京都・羽田)の移転計画を進めており、この秋から千葉県富津市の富津地区工業団地の一角に、世界でも最大規模のポンプ生産設備となる「富津新工場」に移転を開始している。本社は現在の場所で変わりはないが、主力ポンプ工場となる新工場では、より信頼性のある機器の開発をめざす。

新工場では、積極的な海外展開を進めるため、原子力発電用ポンプ専用の組織を新設し、設計、調達、生産技術、品質保証、検査までを一括して行うほか、人材確保にも力を入れている。

同新工場には、米国などへのポンプ輸出を念頭に、国内で実績のあるJIS材料とは異なる米国機会学会(ASME)の規格に適合した材料を採用するため、数億円をかけて同学会の製品認証制度Nスタンプを取得する計画だ。

製品の輸出だけでなく、米国にある同社100%出資子会社であるエリオット社の拠点等も活用して、ポンプのメンテナンスにも対応し、今後の受注体制をさらに整備する方針だ。 (特別取材班)


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