ヨルダン原子力副委員長に聞く 19年運転開始目指し、導入

原子力発電の導入に向け動きが活発化するヨルダン。11月には原子力発電所の建設前コンサルティングで、豪ウォーリー・パーソンズ社と契約を締結している。ディマイ・ハダッド駐日大使の支援を得て、核セキュリティ・サミット準備会合(外務省主催)への参加のため来日したカマール・アーラジュ・ヨルダン原子力委員会副委員長にインタビューした。(原産協会国際部・中杉秀夫、石井敬之)

――初号機運開はいつ頃を目指しているか。

カマール副委員長 当初は2015年の運開を計画していたが、コンサルティング契約締結の遅れなどから、現在では19年をターゲットに定めている。建設候補サイトはアカバ近郊25km地点(アカバ湾から11km内陸)の1か所のみを考えている。同サイトの適合性についてのフィージビリティ・スタディをベルギーのトラクテベル・エンジニアリング社(GDFスエズ社の傘下)が本年10月に開始、2010年末に完了する。その後、入札方式ではなくコンサルタントの推薦を受けて原子炉供給者と協議を開始し、選定後2013年に着工、18年には初臨界を達成し、19年の運開に持ち込みたい。

――原子力発電所の認可は米国の建設・運転一括認可方式(COL)のような方式にするのか。

副委員長 建設前と運転前の2段階に分けて認可する。

――ウォーリー・パーソンズとコンサルティング契約に至った経緯は。

副委員長 16社に声を掛けたが、受注申請を出してきたのは10社だった。バーンズ&ロー社やベクテル社も申請してこなかった。3社に絞った後、最終的にウォーリー・パーソンズに決定した。同社は原子力発電分野では、ブルガリアのベレネ原子力発電所建設プロジェクトや、エジプト、アルメニアでの新規建設プロジェクトなどの案件で実績がある。ちなみに日本企業からの申請はなかった。

――採用候補炉型は。

副委員長 ヨルダンに大型炉はいらない。出力70万〜100万kW程度で、安全実績を考え第3世代炉を採用したい。現時点では、@ATMEA―1(アレバ/三菱重工110万kW)AOPR(韓国100万kW)、APR(韓国100万〜140万kW)BVVER―1000/1200(ロシア100万kW)、VVER―1500(ロシア)VVER―640(ロシア)CCANDU−6(カナダ70万kW)、ACR(カナダ100万kW)――に絞られている。ウォーリー・パーソンズの評価や各供給者との協議を経て決定する。AP1000も候補になると思っていたが、米国との原子力協力協定の問題もあってか、ウェスチングハウス社はアプローチしてこなかった。

――すでにアレバへの発注を決めたとの報道もあるが。

副委員長 そのような事実はない。きちんと評価手続きに従って炉型評価を進めている。

――規制体制構築の進捗具合は。

副委員長 旧ヨルダン原子力委員会は07年に、新原子力委員会と原子力規制委員会に分離された。両委員会とも首相直轄である。国王は原子力発電導入計画に非常に熱心で、我々は2か月毎に国王に進捗を報告している。安全基準等は当初、米原子力規制委員会(NRC)が採用しているものをモデルにしようと考えたが、複雑なため断念した。現在は欧州型のやり方をもっと取り入れて、国際原子力機関(IAEA)の指針をベースにさらにシンプルな体系を目指している。

――人材育成は。

副委員長 原子力工学や医学・放射線防護関連の学科をヨルダン大学に設置している。また日本をはじめ、米国、カナダ、フランス、EU、韓国の規制当局にも協力を求めている。チェコにも研修員を受け入れてもらっている。運転員については選定された原子炉供給者が、運転員の訓練を担当することになる。

――原子炉供給者の選定に際しては、訓練プログラムも加味されるということか。

副委員長 その通りだ。原子炉供給者には最初の10年間の運転員をどのように確保するか検討してもらう。

――原子力発電の実施主体はどこになるのか。

副委員長 原子力発電所を所有・運転する原子力発電会社を設立する。同社は官民共同の形態をとり、ヨルダン政府だけでなく海外企業からの出資を想定している。ロシアが海外企業と設立する合弁企業(ロシア51%、海外企業49%)のようなモデルだ。同社の設立にあたっては、ウォーリー・パーソンズがアレンジすることになっている。

――原子力発電所建設の資金手当ては。

副委員長 ファイナンスは非常に重要な問題だ。BOO(建設・運転・所有)契約であれBOT(建設・運転・移譲)契約であれ、あらゆる形式のファイナンスを検討している。原子力発電会社がヨルダン電力公社と締結する電力調達契約から得た資金を、支払いに回すことになるだろう。

――日本に何を望むか。

副委員長 九州電力が実施するPWRの一部出力を用いた海水脱塩プラントを見学したが、大変参考になった。また三菱重工業の品質管理には感銘を受けている。もちろん三菱重工業だけでなく東芝や日立の参画が望ましいと考えている。これまで東芝・日立からのアプローチはない。日本から原子力関連でヨルダンへアプローチしてきたのは、2年前の三井物産が初めてだった。同社は当時ヨルダンのウラン資源に関心が高かったようだが、現在は関心がなくなったようだ。

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ヨルダンの08年経済成長率は7.9%で、エネルギー需要の95%を輸入に依存しており、エネルギー確保が最重要課題となっている。また国土の砂漠化も深刻で、年間5億立方mの水資源が失われていると言われている。

そのためヨルダン議会は07年4月、発電と海水淡水化を目的とした原子力利用を認める法律を制定。同8月には国王アブドッラーU世が、原子力発電の導入計画を早期に策定するよう政府に指示し、以来、ヨルダンでは原子力導入に向けた動きが活発化していた。

日本の資源エネルギー庁と同国原子力委員会は今年4月に原子力協力文書を取り交し、原子力計画の支援、人材育成、ウラン資源確保などで協力することを決めている。


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