【論人】 秋庭 悦子 NPO法人あすかエネルギーフォーラム 理事長 消費者が主役の時代

消費者団体などが長年望んでいた消費者庁が今年9月1日に発足した。職員が200名程度と小ぶりな組織ではあるが消費者からの期待は大きく、消費者行政の司令塔として、消費者被害の発生防止、拡大防止に向けた関係省庁の取り組みを促進する役目を担っている。

昨年1月、当時の福田総理大臣が施政方針演説で「今年を生活者や消費者が主役となる社会へ向けたスタートとして位置づけ、消費者行政を統一的・一元的に推進するための強い権限の新組織を発足させる」と高らかに歌い上げた時、あまりにも突然で戸惑ったが、ようやく消費者が主役となる時代が来たことを嬉しく思った。早速、消費者代表や専門家で構成される消費者行政推進会議で内容が検討され、消費者団体も弁護士会、司法書士会などと共に「私たちが望む消費者庁であってほしい」と積極的な支援活動を進めてきた。

その後、政権は変わったが、やはり生活者重視の政策は変わらず、民主党のマニュフェストにも「消費者の権利を守り、安全を確保する」となっており、現在、消費者庁は消費者の安全・安心な暮らしのために、次々と消費者問題に取り組んでいる。

消費者行政推進会議で取りまとめられた消費者庁の「6つの基本方針」には、私たち消費者があらゆる行政に望むことが盛り込まれている。「消費者にとって便利で分かりやすい」「消費者がメリットを十分実感できる」「迅速な対応」「専門性の確保」「透明性の確保」「効率性の確保」である。

消費者が原子力行政に望むことも、同様ではないだろうか。特に専門用語が多い原子力用語は、相互理解のための大きな壁になっており、「消費者にとって分かりやすいかどうか」を常に考える必要がある。そして、原子力利用が始まって半世紀以上も経つのに、未だ消費者の理解を得るのが難しい原因の1つは、「消費者が原子力のメリットを十分実感できる」ことがないからではないだろうか。

さて、9月半ば、スタートしたところの消費者庁にとって、最初の大きな問題は花王のエコナという食用油の問題であった。エコナは身体に脂肪がつきにくいというキャッチフレーズで人気が高く、常用している消費者も多い。そのエコナに発ガン物質と疑われているグリシドール脂肪酸エステルが高濃度に含まれていることが判明した。さらに厚生労働省が有効性や安全性について審査をして許可している特定保健用食品の表示をしていたことも問題になった。花王はエコナ関連商品を販売中止して回収し、さらに10月に入って特定保健用食品の失効届を提出し、一応納まった形になった。

しかし、今回のエコナを含めて、ここ数年次々起きている食品の安全性に対する問題について、行政や事業者の対応が本当にこれで良いのか気がかりである。何か問題が起きると、リスクの程度や他のリスクとのバランスについての検討や議論が十分にされないまま、すぐに販売停止や回収しているが、これでは消費者が科学的に判断して正しい知識を得る機会を失うことにもなりかねない。

まずは、不安に思っている消費者に、今まで実施された安全性確認のどこが見逃されたのか、あるいは想定されるリスクの程度など、科学的な根拠に基づいた分かりやすい情報を提供する必要があるのではないだろうか。

原子力発電に関するトラブルや地震などの対応についても、地域の様々な事情があるとは思うが、過剰反応して、必要以上の対策や時間、コストがかかっていないだろうか。発電所に見学に行くと「本当はこんなことまでする必要がないのですが」という声をよく聞く。安全・安心の呪縛に対応すればするほど、消費者が科学的合理的に判断する機会を逸することにならないか考えてほしい。真に「消費者が主役の時代」になるためには、まずは、社会という舞台を皆が協働で整えることが必要ではないだろうか。


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