【書評】原子力の過去・現在・未来 ―原子力の復権はあるか― 工学博士・山地憲治著原子力ほど光と影≠フ落差が顕著な巨大技術はない。「最終的にはエネルギー資源の有限性を克服し、人類に地球環境の制約から逃れることすら可能にする潜在力を持っている」(本書文中)半面、常に核兵器・放射線被ばく事故への恐怖と背中合わせの宿命を抱える。それだけに、原子力問題は単なる科学技術の問題ではなく、社会とのかかわり・受容性について深い考察≠ェ必要となる。 著者(東大工学部工学研究科教授)は原子力の在り方には実にさまざまな切り口、意見・主張があり、それを理解するにはその背景となる広範な領域の知識と視点が必要なだけでなく、「自分の考えで再構成」することが肝心だとの思いを強く持つ。したがって本書の基本的狙いは、放射線利用や核融合を含めこれから原子力がどうなるか、どうすべきかを自分で考えてもらうための基礎知識を提供することに徹し、原子力の歴史を知り現在の立ち位置を理解するため、@原子力の誕生A兵器としての原子力B平和のための原子力C原子力開発の曲がり角D原子力の復権の5章構成とした。 原子力は今、世界共通の喫緊課題である地球温暖化防止、エネルギー安全保障および持続的経済発展を鼎立する有力選択肢として再認識され、途上国、産油国を含め世界規模で原子力発電の新規導入・増設計画が目白押しなうえ、核燃料サイクル時代幕開けの歴史的節目を迎えている。しかし、それにしては原子力の顔≠ェ国内外ともあまりにも希薄なのは、まだ「世界的市民権」を得るに至っていない証左だろう。 であればこそ大事なことは、一人ひとりが原子力と向き合い、考え・行動することで、「知らない、知りたくない」では済まされない時代を迎えた。本書には著者の持ち味そのままに、緻密な分析力、文明観、洗練されたクールさに裏打ちされたダンディズムを感じる。 (英) コロナ社刊、170ページ、定価2100円(税込)。 |
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