世界初AP1000の現場を見る 中国・三門発電所 順調に建設進む

世界初のAP1000が建設されている中国の三門原子力発電所1、2号機を、日・中原産協会交流の一環として訪問する機会を11月末に得た。建設の模様をレポートする。(喜多智彦記者)


喧噪の「魔都」上海から南へ車で2時間。世界最長の海上橋「杭州湾上大橋」を渡る。2008年5月に完成したこの橋は全長35.6キロメートル、海塩県(県は市の下の行政単位)から寧波市を結ぶ。発展する中国の象徴ともいえる。建設費118億元(約1500億円)、うち35%は地元私企業が投資した。

この橋は原子力と無関係ではない。橋の地元の海塩県は秦山原子力発電所の立地地点。同県の収入のうち、秦山原子力発電所からが4億元(約50億円)を占め、全中国3000県の中で30位の豊かさ。「原子力と橋」を起爆剤として大規模な工業団地を造成、関係企業の誘致に成功している。

大橋を渡って対岸の都市寧波を過ぎ、さらに高速道路で3時間ほど南下したところに、三門県がある。原子力発電所サイトに向かう道路の中央分離帯には「AP1000建設の先行軍−中国核工業第五建設公司」と大書されたのぼりが、誇らしげにはためく。

三門サイトには6基のAP1000建設が予定されており、山を削って半島状の広大な敷地を持つ。

同発電所の1、2号機は2007年7月に契約が結ばれ、1号機のファースト・コンクリート(FC)は2009年3月、2号機は12月(=3面に関連記事)、約6か月のインターバルで2号機が1号機を追いかける建設スケジュール。1号機の燃料装荷は2013年9月、運転開始は同12月を予定しており、4年9か月という、初号機としては短い建設期間だ。

3、4号機の建設については、フィージビリティ・スタディを国務院(内閣)に提出してあり、許可待ちの状態。

きれいに整地され、重量物運搬のために補強が施された建設現場には、圧力容器や各種コンポーネントを吊り込む巨大クレーンが立つ。ここでは約2500人の作業員が働き、うち700人が技術者だという。

三門原子力発電所では中国初のモジュール工法を採用し、建屋は建設現場脇の作業場でモジュールにまとめられ、クレーンで吊り込む。モジュール製造は、24時間体勢で進行している。

1号機では、原子炉等のニュークリア・アイランド(NI)、タービン建屋のコンベンショナル・アイランド(CI)、冷却用取水ポンプ建屋の3か所で掘削・建設工事が同時進行中。この3か所では工事の実施会社が異なり、全体の契約関係はかなり複雑だ。

ウェスチングハウス・ショーはNIのみを担当し、CI、取水ポンプ建屋は国内企業が受注している。

現場を案内してくれたウェスチングハウスの銭挺・副プロジェクト・マネジャーによると、同社の責任範囲はNIの設計・施工管理と一部機器の供給という、かなり限られたものだという。1号機の圧力容器など一次系は韓国の斗山重工製だ。三門のAP1000NIの設計は、米国で設計認証(DC)を受けたものとほぼ同一の設計だが、今後、国産化が図られる。

所有者の中国核工業集団公司(CNNC)は、三門プロジェクト担当組織を通じて全体のプロジェクトの取りまとめと管理を行っているが、組織・契約関係の複雑さなどが、プロジェクト・マネージメントに影響を与えないか、注目されるところだ。完成後は三門核電公司(SNPC)が運転を行う。

120万kW級としてはかなりコンパクトに見えるNIは、掘削、基礎配筋、コンクリート打設が終わり、鋼鉄製格納容器のボトム・ヘッドの吊り込みを待つ状態。

格納容器は部位別に、サイト内の組み立て作業場で作られており、ボトムヘッドは直径39.6メートル、高さ11.5メートル、重さ670トン。この巨体の組み立てには、屋根付きの作業場があてられ、今年10月にこの部分は完成している。隣接した作業場では、格納容器胴部の鋼製リングが製造中であり、ボトムヘッドの設置後に、順に据え付けられる予定。厚み4.15センチメートルの鋼製格納容器は直径39.6メートル、高さ65.6メートル。

CIは、NIのコンパクトさから比べると大きく、掘削が非常に深いように感じる。これは取水ポンプ建屋も同じだが、サイトが海面から10メートル以上の高さにあるためかもしれない。環境保護のため、冷却水は沖合300メートルから取水され、半島を隔てた反対側の沖合に排水される。タービン・発電機は日本の三菱重工業とハルビン動力設備有限公司の合弁会社が受注した。

三門の建設現場はよく整理され、整然とした印象。原子炉部分がウェスチングハウス・ショーのためか、サイトへの立ち入りには、ヘルメット、安全靴、オーバーグラス、蛍光色ベストの着用が義務づけられ、かなり国際基準に近い労働安全管理が行われているように思えた。


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