〈原子力の課題〉

今年の原子力をめぐる課題としては、まず民主党政権下での原子力政策の整理問題が挙げられる。昨年の予算事業仕分けでは、予算削減の観点から、いくつかの予算項目で削減方針が公開の場で示された。これからは、原子力政策や原子力規制のあり方など制度の大枠や、府省間および独立行政法人の組織の見直しなども行われようとしている。確かに民主党のマニフェスト(政権公約)や政権政策資料では、基本的に原子力推進の重要性が掲げられてはいるものの、高レベル放射性廃棄物の地層処分や原子力安全規制体制のあり方については、現状とは異なる同党の方針が述べられている。

ただやたらと「変化」を急ぐことが、政権交代の意義ではないだろう。これらの党の方針実現には、専門性の高い関係者との話し合いや、いままでの経緯、存在理由などを十分に踏まえてから、実行に移してほしい。そうでないと、今後、タイムテーブルにのってくる原子力委員会による原子力政策大綱の改定などにも大きな影響が出かねない。原子力安全委員会の存在や活動そのものも同様だ。

一方で、日本の原子力技術は、原子力ルネッサンスの中で、今後、世界的に飛躍する見通しだ。いままでも一部の機器や部材での輸出はあるが、日本メーカーによる原子力プラントの建設実績はなかった。品質保証や燃料供給、原子力発電所の運転後はメンテナンスを含めた総合的なサービスも必要になってくる。グローバルなビジネス展開には、核セキュリティーや保障措置などの国際約束や、その対象国の規制などもクリアしていかなければならない多くの課題も伴うため、国による強力なサポートが求められる。

国内的な課題は、既設プラントの稼働率向上、高速増殖原型炉「もんじゅ」の試験運転再開、六ヶ所再処理工場の竣工、新型遠心機導入によるウラン濃縮工場への改造、MOX燃料工場着工など目白押しだ。

幸いなことに当初計画からは遅れたものの、プルサーマル運転では昨年12月、日本最初の本格運転が九州電力・玄海3号機で始まり、他のプラントでの展開も徐々にではあるが進みつつある。4年ぶりに行われた内閣府の世論調査でも、原子力発電支持が4.5ポイント増加し、約60%に上昇した。地球温暖化防止に貢献することも50%の人が「知っている」というようになり、国民の原子力に対する理解は少しずつ進みつつあることが伺われる。

そんな中で、今後残された最大の課題は、高レベル放射性廃棄物の最終処分場確保問題であることは明らかだ。この問題は地球温暖化問題と同様、一見、すぐに解決しなくとも日々の営みの中では何ら困らないように感じられるかも知れないが、回りまわって電気の安定確保にとって、致命的な影響を与えかねない。数十年にわたる長期事業を開始するための第一歩を踏み出すために、いくつかの自治体首長は文献調査の公募にぜひ手を挙げてもらいたい。

次の年にはもう来ないかも知れないサーファーなどの言葉より、長年研究を積み重ねてきた研究者や責任ある事業者の言葉に重きを置いてほしい。文献調査を受け入れて国から受け取る交付金で、今世紀前半にも発生の可能性が高いと見られている南海地震(M8クラス)に備えたいと訴えた町長の町おこしの思いは、四国の東洋町では実を結ばなかったが、同じような思いを持った次に手を挙げる地域のもとで、芽を出し大きく育つことを強く願う。

成熟社会を支え、エネルギー供給構造をより強化する循環型社会に変えていくことが、静かに忍び寄る大きな社会変化への備えとなる。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで