原子力学会 新指導要領で提言 100種類超す教科書を調査

日本原子力学会の原子力教育・研究特別専門委員会(主査=工藤和彦・九州大学高等教育開発推進センター特任教授)は、高校教科書のエネルギー関連の記述に関する提言をまとめ、工藤主査(=写真右側)が16日、文科省を訪れ、坂田東一事務次官に提言書を手渡した。

昨年3月に文部科学省が告示した新学習指導要領の13年度施行開始を踏まえ、現行教科書の原子力・放射線関連の記述を調査した上で、新指導要領に基づく教科書の編さんが適切になされるよう求めるもの。

原子力学会では、これまでも小中高校で使用される教科書のエネルギー関連の記述に関する調査を行ってきており、昨年1月には、新指導要領に基づく小中学校の教科書編さんに向けた提言をまとめている。高校の新指導要領は13年度入学生から実施されるが、教科書の検定は使用開始の前々年度に行われることから、今回の提言では、教科書執筆者・発行会社始め、文科省の検定審議会、地方教育委員会他、教育関係者に対し、生徒たちに原子力・放射線関連の正確な知識を与えるものとなるよう検討を求めている。

教科書のエネルギー関連記述に関する調査は、現行の国語、英語、地理歴史、公民、理科の計125点について行っており、調査ワーキンググループでは、「この分野に関連する記述の大部分を調査した」としている。

そのうち、地理歴史、公民、理科については、修正が望ましい内容を、「事実とは異なる事故、技術、データなどの記述」、「誤った用語や不適切な表現による記述」、「誤りとは言えないが誤解を与える可能性のある記述」、「タイトルと内容に整合性がない記述」、「記述の根拠となる出典が不十分な記述」に分類・指摘した。

また、国語、英語では、原子力の負の側面をテーマにした論文等が学習教材として扱われている事例について調査している。

例えば、主に地理歴史、公民の教科書で取り上げられる「チェルノブイリ事故」について、「爆発事故」という表現が多く見られるが、核爆発を起こしたものと誤解を招くことから、「原子炉が制御不能になり異常に高温となった結果、多量の蒸気が発生しその内圧で原子炉の上部が壊れ、燃料被ふく管と冷却水との特殊な反応で発生した水素が空気と触れ爆発した」などと正確な記述とするよう求めている。

これら調査結果を踏まえ、「現在の高等学校の教科書には、原子力に関する説明が不足、あるいは説明に誤りや誤解を招くような記述が随所に見られる」とし、「国語、英語における原子力関連論文などの選択」、「地球環境問題への対策となる原子力発電」、「原子力利用の世界的傾向」、「過去の原子力事故に関する記述」、「放射性廃棄物に関する記述」、「原子力発電所の安全性、耐震性に関する記述」、「データや図表の最新化」など13項目について提言し、将来を担う若者たちに資源問題と環境問題の解決策として、原子力エネルギー利用の有望性が理解されるよう要望した。


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