【解説】規制の方向性明確化 ステークホルダー・コミュニケーションの重要性を指摘

原子力安全・保安院は、総合資源エネルギー調査会の原子力安全・保安部会の下に設けた基本政策小委員会で、今後の安全規制の課題と方向性に関する報告書「原子力安全規制に関する課題の整理」を取りまとめ、9日の同部会に報告した。今号では、同報告書のポイントを整理し、解説する。

〈環境の変化と対応課題〉

保安院は2001年の発足時に安全規制の目指すべき方向、制度基盤・知識基盤・人材基盤の整備に関する提言をまとめ、その提言を指針として安全規制と基盤整備を進めてきた。その後、電力会社の自主点検問題や美浜3号機二次系配管破損事故、新潟県中越沖地震などへの対応とともに、品質マネジメントシステムの導入による監査型検査の適用や国の技術基準を性能規定化し、詳細は最新の民間規格を活用できる制度などの改善を実施してきている。

中央省庁の再編に伴い、原子力安全規制を一本化する方向性で保安院の設立となったが、限られた人材等リソースをいかに効率的に活用するかは、発足以来変わらない課題だ。加えてプラントの高経年化の進展、使用済み燃料の中間貯蔵事業の計画進展、廃止措置の本格化などの安全規制の対象範囲の拡大、多様化といった事業の進捗に伴う新たな課題が山積している。また米国をはじめとする原子力回帰の潮流は、わが国原子力メーカーの国際的再編と国際展開の急速な進展を見るに至り、安全確保に関する国際協力や安全規制の国際的な共通化も現実的な課題として浮上している。

加えて、我が国原子力発電所の稼働率の低迷は、環境問題への対応の切り札としての役割を十分果たしていないとも考えられ、安全規制上からも対応すべき課題が指摘されている。

〈5分類、約40項目の課題に整理〉

課題は下表の通り、5つに分類された。日々進展する技術等の知見、経験も蓄積し、これを適時取り入れていくことが必要であり、発電炉の高経年化など先を見越した取り組みの規制課題もある。昨今の原子力回帰の世界的な動きは、プラントメーカーをはじめとして海外市場への展開を加速しており、国際的な標準に合せた規制が求められる。また限られた人材等資源をいかに適正に投入し、効果的な規制を行うかも重要な視点で、機能的な規制機関への取り組みとして外部専門機関の活用のほか、規制業務の適正化と品質保証活動の充実などを課題に挙げた。

また報告書には産業界や労働界、立地地域を中心とした市民など関係者(ステークホルダー)とのコミュニケーションを図る重要性が認識され、課題として盛り込まれた。特に日々、原子力施設の安全を預かる産業界、労働界等との密接なコミュニケーションは欠かせない。立地地域での理解も不可欠な課題であり、安全規制上の課題として明記されることとなった。

〈公平・公正な規制機関への期待と課題〉

安全規制は、原子力発電所などの設計・建設、運転、廃止といった一連のプロセスをカバーする。今回の報告書では、その設計・建設段階の安全審査関係書類について、統合・最新化された場合に変更手続きの範囲についても、形式的な要件から安全上重要な範囲にするなどの考え方を明確化することなどの安全審査制度の充実を課題に挙げた。

設計・建設段階での安全審査は重要な部分だが、設計・建設の安全審査関係書類について統合・最新化された場合に、形式ではなく安全重要度に応じた変更の手続きになるよう、考え方を明確にする方向性を盛り込んだ。

また国が行う工事認可手続きが設備・機器の構造強度に重きを置きすぎ、また工事認可の審査や使用前検査において、海外で実施されているような外部専門機関の活用ができていない現状から、構造強度に関する設計審査・検査などの専門性の高い業務は、米国の事例などを参考に、外部専門機関を活用して民間へ移行し、国は広く安全性に関わる方針等を確認するなどの工事認可制度の見直しも盛り込んだ。

こうした安全規制のプロセス見直しは、すでに着手している監査型検査への移行など、形式よりも安全重要度に焦点を絞った実効的な規制をめざすものとして、今後、課題をいかに具現化していくかが注目されるところだ。

安全規制機関は、原子力発電所など施設の日々の安全を預かる事業者について、ときにその現場の動きを的確に見る立場。事業者らが安全確保をきちんと図っているかを見るレフェリーの役割といえる。したがって、今後の方向性を具現化するに当たり、現場を預かるプレーヤーとしての関係者とコミュニケーションをきちんと図っていくことが大切なことだ。

無論、それを見守る立場の立地地域住民の理解も不可欠であり、安全を安心につなげるためステークホルダー間のコミュニケーションが、安全規制上の課題に明記されたことは評価できる。安全規制機関の公平・公正な役割に対する国民の期待に応えるためにも、健全なコミュニケーションが図られることに期待したい。


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