【企画】東海大学・高度人財育成プログラム 原子力界の明日を担う 日本ビジネス教育も

東海大学大学院では、アジア等の留学生への奨学金、人材育成、就職支援などを通じ、産業界で活躍する専門人材の育成を促進する経済産業省・文部科学省「アジア人財資金構想」の採択事業として、「原子力発電分野における高度人財育成プログラム(Global Initiative on Asian Specialized Nuclear Personnel Program Tokai University=略称「GIANTプログラム」)」を実施している。神奈川県平塚市にある同大学を訪れ、プログラム・コーディネーターや留学生の話を聞いた。  (中村真紀子記者)

実践力重視のプログラム編成

東海大学は、1955年の「原子力基本法」成立に関わった松前重義博士が創立し、日本初の原子力工学科および大学院原子力コースを設置。これまでに3700人以上の卒業生を輩出している。

同大学で2008年より実施しているGIANTプログラムは、原子力発電導入予定国や原子力関連の資源輸出国出身の優秀な理工系学部卒業生を、大学院工学研究科応用理学専攻(修士課程)に受け入れ、「原子力に関する高度な知識」および「日本語でビジネスが可能なレベルの日本語能力」をもつグローバルな“人財”を育成する。原子力ルネッサンスを迎えて競争の激化する世界の原子力市場の要請に応える内容となっている。

同プログラムのコンソーシアムには東芝、三菱重工業、日立GEニュークリア・エナジー、日本原子力発電、東京電力、関西電力、東北電力、伊藤忠商事、三菱商事、住友商事、原子燃料工業、国際研修交流協会、教育と探究社――が名を連ねている。

GIANTプログラムは通常学位取得に必要な「大学院修士課程カリキュラム(単位数)」に加えて、「産学連携高度専門教育プログラム」「ビジネス日本語/日本ビジネス教育」「プラントメーカー、商事会社でのインターンシップ」からなり、基本的に全て日本語で講義が行われている。国費留学生として採用された学生は、プログラム前に学内で6か月間の日本語予備教育を受けることができる。

同プログラムを特色づける「産学連携高度専門教育プログラム」は、コンソーシアム企業や原子力機関から専門家を講師として招き、理論よりも実務を中心として現場で役立つ講義を行っている。講師はテキスト作成の時点からカリキュラム開発に係わっており、産業界が求めるスキルやノウハウを体系化したものとなっている。

2009年度の高度専門講義は、「エネルギー情勢および原子力発電全般」「原子力安全および安全規制、核不拡散と保障措置、技術者倫理」「放射性廃棄物処理処分」「放射線安全および管理」を必須とし、プラント系の選択講義として「原子力発電所設計および基準、規格」「原子力発電所の建設・運転・保守」、資源系の選択講義として「原子燃料サイクル」「アップストリームおよび燃料成形加工」がある。

また、日本の企業文化に対する理解を深め、日本人の中で円滑なコミュニケーションや難度の高いディスカッションを行う日本語力を身につけるための講義も充実している。日本の産業基盤や日本の産業史・産業構造、日本型サービスなどの概説を通し、日本企業の仕事の進め方や人財育成の考え方を学んでいく。さらにビジネスシーンにおける表現方法、電話の応対、手紙・報告書の作成、プレゼンテーション、公式な場でのスピーチ、Eメールの書き方、ビジネス文書の読解と作成、マニュアルの読み方と作り方、原子力で必要不可欠な日本語など、日本企業で即戦力となるビジネス日本語力を養成する。

〈10年後原子炉担当者に〉
プログラムに参加している学生10名のうち6名にインタビューをした。

(日本語でインタビューに応じてくれた留学生たち)
▽ジャムスランジャヴ・エルデントクトホ氏(モンゴル出身・モンゴル国立大学電子物理学科卒業)
▽クェン・トーン・ズイ氏(ベトナム出身・ホーチミン市自然科学大学核物理学科卒業)
▽ストリスナ・カデック・フェンディ氏(インドネシア出身・バンドン工科大学電気工学情報学部卒業)
▽プラソンジャロエン・マニター氏(タイ出身・モンクット王ラカバン工科大学化学工学部卒業)
▽マーディアンサ・デビ氏(インドネシア出身・バンドン工科大学物理学科卒業)
▽タンケットモンコンスック・ジェッサダー氏(タイ出身・モンクット王ラカバン工科大学制御工学科卒業)

―来日前の日本に対する印象は。
「テレビや本から技術の進んだ国というイメージを持っていた」

―このプログラムに参加した理由は。
「最初は日本に興味があった。子どもの頃から日本に留学したいと思い、来る前も日本語の勉強をしていた」
「私はもともと原子力を学びたいと思っていた。GIANTプログラムは、原子力だけでなく日本語も日本のビジネスも学べ、優れたプログラムだと思って選んだ」
「フランスと日本とどちらで学ぼうか迷った末、日本を選んだ。フランスはだいぶ前から原子力発電に国民の合意を得ているのに対し、日本では反対の声も強く、より自国の状況と似ていると思った」
「日本で就職するのは難しいが、GIANTプログラムを通してなら可能性が広がると思った」

―実際に講義を受けてみてどのように感じるか。
「日本語は初めてで大変だったが、一所懸命勉強して少しずつ分かるようになってきた」
「自国には原子力を紹介する科学館などがなく、原子炉のイメージを思い描くのも難しかった。原子炉が実際に動いている日本では理解するためのツールも豊富」
「高度専門講義では、実際に企業の人が来て話をするので面白い。自分は原子力技術については詳しくなかったので、授業での説明がとても役に立つ。この授業のおかげで大学院の授業が理解できる」
「日本は過去に原子爆弾を落とされた経験があるのに、世界第3位の原子力発電国。最初にどういう方法で原子力発電を普及させていったのか興味深い」

―原子力発電に対して周囲の人たちはどう受け止めているか。
「原子力を勉強していると言ったら周りはびっくりしたが、特に反対されたわけではない」
「自国で自然保護活動団体の人に会ったことがある。こちらから地球温暖化防止のため二酸化炭素排出を減らすのにどうするつもりか聞いたところ、風力や太陽光による発電があると言われた。だがそれらは出力の小さい発電で、効率を考えると原子力発電が有効だ。将来的には廃棄物問題もクリアし、ゼロリリースの可能性もある。そう言ってみたが耳を貸してもらえなかった」
「イベントの打ち上げで、原子力は発電ではなく爆弾につながると言い始めた日本人がいた。だいぶ酔っぱらっているようだったが」
「自国の半分以上は原子力発電に反対だと思う。一般的な人たちは原子力発電の仕組みがよくわからないまま、外国の事故のニュースなどだけを耳にする。先進国でなくても原子炉を持っている国はあるので、それらの事例を学びつつ、自分たちの国でも安全な原子力発電はできるはずだと説明していきたい」
「都市部の人に二酸化炭素排出や地球温暖化について説明することはできる。ただ地方に住んでいる人に同じ説明をしても分かってもらえない。相手のレベルに合わせた話し方が必要だと思う。私も他の人に説明するときはなるべく中学生でも分かるように説明したいと思っている」

―日本での就職について不安な面などはあるか。
「説明会に早く行かないと満席になってしまったり、常にメールチェックをしなければならなかったり、就職活動の手順がなかなか大変と思う」
「不景気で採用数も少なくなっている」

―10年後にはどのような活躍をしていたいか。
「日本が好きなので何年でも日本で働きたい。でも日本は物価が高いのでもし仕事がないとしたら生活が大変だと思う」
「今後日本が原子炉を建てるために必要な人材の確保にも外国人が協力する場面が出てくるかもしれない」
「これからは日本が外国へ向けて原子力発電所を輸出していく時代が始まり、実際には2020年頃から建設が始まると思う。この10年でいろいろな経験をし、学んでいきたい。現地の言葉が話せる人の方が相談しやすいと思うので、その時に原子炉を売れる担当者になりたい」

   ◇   ◇   

当日見学した日本語読解の講義では「日本人と残業」について書かれたテキストを使って残業の理由を考えたり、「気がひける」「黙認」などの日本語を学んだりしていた。講義に真剣に取り組む留学生の姿勢に、世界の原子力の将来を見る思いがした。

GIANTプログラムは10年秋スタートの6期生から日本政府の補助対象から外れ、自立化した運営が求められている。

問い合わせは東海大学国際戦略本部国際連携課(電話0463―58―1211)まで。

〈GIANTプログラムプロジェクトリーダー内田裕久理学博士(東海大学理事/国際教育センター所長)の話〉

GIANTプログラムのように、実務的な話をこれだけ体系的にいろいろな切り口でまとめ、なおかつその道の専門家が丁寧に説明する試みは、国内でも初めてではないかと思う。

プログラムに参加している留学生たちはガッツがあり、とにかくハングリー精神が他の学生とは違う。日本語を全くのゼロから始めて今まで漢字を習ったこともなかった学生が、日本語論文を電子辞書で一字一句調べながら読み、黒板で漢字を一生懸命考えながら書く。こうした姿勢から日本人学生もよい影響を受けている。

1期生たちが一般企業にインターンに行く時期を迎え、GIANTプログラムの学生たちの就職活動が本格化している。プログラム発足当初には予期しなかった不況に入ったこともあり、採用枠を減らす企業が出てきている上に、原子力業界に日本の優秀な学生も殺到し、厳しい状況にある。

このプログラムをはじめ、経済産業省と文部科学省が主導し「アジア人材資金構想」など優秀な留学生を日本に招聘しているが、入口である日本の大学への入学体制だけでなく出口である日本企業の留学生受入体制も整えていなければならない。例えば外国では一般的な9月の卒業生(GIANTプログラム1.3.5期生〔本事業の委託期間終了〕も9月卒業)に日本の企業が対応できるシステム構想や、世界の教育マーケットにおける日本の教育の強みの分析など、考えるべき課題は多い。

将来の戦力として日本人に全く引けをとらない実力を持つ留学生たちが、グローバル展開する企業で活き活きと働いていけることを心から願っている。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで