【国家成長戦略 −「原子力」を見据える】 電気事業連合会 原子力開発対策委員長 武黒 一郎氏に聞く 新規導入国を「仲間」に 海外展開にも電力会社の「実行責任」

―世界原子力事業者協会(WANO)の視点から「原子力の今」への認識は。

武黒 WANOの隔年総会が2月にインドで開かれ、私はアジア全体をカバーする東京センター議長として出席し、パネル討論の座長も務めた。今総会の中心議題は、原子力新規導入国への対応およびWANOのガバナンスを強化するため各国の電力経営トップの関与を強め、流れを加速していくことにあった。とりわけ、原子力発電プラントの発注先をめぐり世界の耳目をそばだてたUAEやベトナムのような原子力の「新規導入国にどう向き合うか」が焦点。どこかで万一重大な事故が生じれば、世界の原発が同時に重大な影響を受ける。それだけに、WANOやIAEAで培ってきた知見をベースにしながら新規導入国が原子力安全、信頼性確保に向け真剣に取り組む明確なメッセージが相次いだ。

同時に、WANOとして新規導入国に対応する専門家チームを創設し、当面は本部をロンドンに置くことで合意した。WANOはこれまで各国の個々の発電所を対象にしたピアレビュー(相互評価)を実施、世界のベストプラクティス(最高水準)と比較し弱点があれば事業者を支援するための技術支援チームを派遣するなどのフォローをしている。今後は、このシステムを運転中のプラントだけでなく、これから建設して核燃料を原子炉に装荷・起動する前に実施し、もし弱点があれば事前に素早く修正する体制を整え先手を打つ計画で、すでにアジアでは中国、台湾、インドや韓国でも着手している。

ただ今回の総会では招待したUAE以外は従来からのメンバー国が大半だったので、中国の深☆注)で開催予定の次期総会には、新規導入を真剣に検討しているアジアの未加入国に参加を呼びかけたい。いずれにしても、「新興国における原子力発電新規導入機運は本物か?を問う段階は過ぎ、現実に導入を検討している国々を、機を逸することなくWANOの仲間≠ニして協働する時代を迎えた。

―わが国では今、原子力の国際展開戦略で「オールジャパン体制」がキーワードとなり、その中核として電力会社の役割に焦点が当たっているがどうか。

武黒 「原子力発電所」というのは普通の商品ではなく、数千億円の巨額な投資であり、設計段階から運転開始まで極めて長期のリードタイムがかかる。また高度な専門性も必要なうえ、完成後60年にもわたって安全・安定運転してキロワットアワーを生み出して初めて意味がある。したがってメーカー、ゼネコンはその出発点≠ナあるプラントを作る意味で必須だが、結果を生み出すには燃料調達や電力会社を中心とした運転保守が要だ。さらに、核不拡散、核セキュリティー問題や種々のインフラ整備に加え、リスク管理面でも政府の支援・関与が不可欠だ。しかも、こうした主要メンバーが相互に役割分担、一貫協力し合う必要があり、それが「オールジャパン」の骨格だと考える。

ただ、原子力発電所そのものをどうやって全体調整しマネジメントしていくかになると、当該国の電力会社が本来の主役≠ナある。そこに十分な知見、経験があることを前提として、元の輸出国の電力会社が必要な支援をしていくことが自然であり、われわれ日本の電力会社の役割になるものと認識している。具体的にどういう形になるかは今後の課題でもある。

―民主党の「政治主導」による政策展開について見解は。

武黒 政治主導といっても、われわれ電気事業者としてまず大事なことは、これまでの経験の下に良い設計・建設をし、安全確保しながら運転することが基本。電力会社もメーカーも国営企業ではなく株主がいる民間会社でありビジネスとして活動しているので、それに伴うリスク管理は当然の責務だ。同時に、国家戦略としての原子力海外展開のようにビジネスとして成立するか否かと質の異なるリスクや難しさもあり、こちらは国の役割に大いに期待したい。

われわれが過去30〜40年間にわたり原子力事業に取り組み学んだことは、立地地域の目線に合わせて発電所運営に当たらなければ絶対に信頼は得られないということだ。これは新規導入国でもまったく同じで、一番の要点だと思う。「国家戦略」とか「政治主導」などの言葉に安易に依存することは避けたい。われわれには実行責任があり、海外展開した当該国でも信頼を得られるものにしていかなければならない。

編集顧問 中 英昌

注):ヘンは土、ツクリは川、発音はセン(WEB編集者)


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