【国家成長戦略 「原子力」を見据える】日本電機工業会 原子力政策委員長 五十嵐安治氏に聞く 国際展開メーカーの裾野拡大 原子力めぐる議論の深化を評価―長年にわたる原子力の現場経験と日本電機工業会(JEMA)の視点から「原子力の今」は。 五十嵐 私は石油危機でトイレットペーパーもままならない混乱を目の当たりにして石油以外の新エネルギー確保がわが国最大の課題だと考え、1975年にプラントメーカー(東芝)に入社した。当時はちょうど米国の技術で軽水炉の原子力発電所を相次いで建設する端緒で、すぐ東京電力福島第一6号機の建設で現場に携わり、続いて国産初の110万kW級原子力発電所である福島第二1号機、柏崎刈羽など多数の建設プラントや保全を経験した。現在はとかく短期的視点で経済をとらえがちだが、当時は長期的ビジョンの下に「原子力発電所を建設し続ける」という強い意志を持ち、国、電力会社、メーカー、ゼネコンが一体となり、懸命に地道な努力を積み重ねてきたことが今日の日本優位≠フ根源だ。原子力は計画からプラント完成までに7〜10年かかるだけに、日本で培われた良さがこれからの海外展開でも生かされるには、原子力導入国のぶれない長期的視点での取り組みが大事かと思う。 また、JEMAとして原子力ビジネスはわれわれプラントメーカーだけでなく、裾野の広いサプライチェーン・メーカーまで含め重みを増しており、この40年間に培ってきた優れた技術を海外諸国で生かせることが肝心だ。国も新成長戦略の柱の1つに原子力を位置付け中堅・中小メーカーの国際展開を支援しつつあるだけに、これまで躊躇していたメーカーの中に海外に出て行こうと決断するケースが出てきた。われわれとしてもこれまでの強みを最大限発揮できるし、こうした動きがJEMA全体に広がることで日本の総合力を発揮できるうえ、国際基準に適合するような物づくりの在り方を学びながら世界に通用する次世代の人材を育成するチャンスだと考える。 ―今後の原子力国際展開のキーワードとなっている「オールジャパン体制」についてメーカー・ビジネス当事者の立場からどうか。 五十嵐 人によりさまざまな捉え方があるようだが、原子力発電プラント輸出では相手国の「望んでいる姿」をまずよく考える必要がある。たとえば原子力輸出には二国間の協力協定が前提となるし、損害賠償など法的な問題でも国家間の関係が不可欠となる。またプラント完成後の運転への支援が必要な場合は、電力会社の役割が非常に大きくなる。米国のようにすでに原子力発電所を持っている顧客の場合は運転および国の審査体制が整っているので、われわれは、機器を供給し、地元企業と協力してプラントを建設する。 さらに、世界全体では国際原子力機関(IAEA)の関与も含め、安全に管理される体制が大事となる。このように、国によって望む姿がさまざまなので「オールジャパン」という概念でひとまとめにはできないと思う。また「オールジャパン」と言うとき、素材も含めて、すべてを純粋な日本製品だけで作れるものではない。これは日本国内の原発建設でも同様である。 このところ、UAEやベトナムの原子力プラント建設を通じて韓国、ロシアが国際原子力ビジネス戦線に躍り出たことで、わが国ではにわかに「オールジャパン」の取り組みが脚光を浴び、なおかつ新聞報道では「勝った・負けた」の大見出しが躍る。しかし、われわれメーカーの立場からすると、大きなリスクを持たず、株主に不利益を与えないようにする責任は重い。 ―「政治主導」で原子力をめぐる議論は活発になり、深化しているのか。 五十嵐 たとえば原子力部会の場に委員として参加していても、日本の原子力設備稼働率の低さについて規制当局、学者、原子力発電所の地元、電力会社、メーカーといったさまざまな分野の人たちの間で極めて率直かつ真摯に議論されるようになったことは大変心強い。米国ではかつて厳しい規制強化で稼働率が日本を大きく下回る「原子力冬の時代」があったが、原子力規制委員会(NRC)が開かれた形になり率直な意見交換を通じて原子力発電のあるべき姿を合理性を持って実現する方向へ転換し今日がある。逆に今は日本の稼働率が海外諸国に比べ低位・低迷しているだけに、われわれも海外に学ぶべきところはしっかり学ぶとともに、メーカーとしては稼働率向上のための技術開発に鋭意努力し、原子力発電の大きな利点であるCO2削減効果をフルに発揮できるよう貢献していきたい。(編集顧問 中 英昌) |
お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |