【国家成長戦略 「原子力を見据える」】 視点 原産年次大会を通じて 「国家戦略・原子力」浮き彫り「人材不足」世界共通のネックに 各国「世界のリーダーシップ」に虎視眈々

第43回原産年次大会が4月20〜22日、19か国・地域から約1000名が参加して、松江市で開催(=写真は所信表明する今井敬原産協会会長)された。

原子力発電は今、先進国における「ルネサンス」の加速に加え、中国、インドの途上大国での大増設、さらにベトナムなど世界各地の発展途上国における新規導入計画が同時並行的に具体化しつつあり、持続的発展と温暖化対策両立の切り札というだけにとどまらず、プラントビジネスの獲得競争が国家間の総合力と威信をかけ激化している。さらに、核燃料サイクル・次世代炉の開発等の原子力新時代を視野に、原子力は21世紀の国家消長を左右する成長戦略の重要な柱として浮上している国際的構図が、今回の年次大会を通じても浮き彫りになった。

ただ、国家戦略としての位置付けは一様でなく、すでに原子力を導入している国と新規導入国に大別できると同時に、各国の状況で国際展開については濃淡があるが、いずれも原子力への認識の高さ、情熱のもとに長期的ビジョンを立て、自らが世界のイニシアチブを執ろうとの意欲に燃えている。たとえば自国の75%以上の電力を原子力で賄い、国際プラントビジネスで最右翼の仏は、「原子力は長期にわたる過小評価の反動で、世界のエネルギーミックスにおける主役として強烈な回帰を見せている。グローバルな戦略的動向の中で仏の役割を果たしたい」とソフトな表現ながら、先のUAE、ベトナムでのプラント商談で韓国、ロシアに敗退した無念を内に秘め、3月にはサルコジ大統領自らパリで「原子力導入に関する国際会議」を開き、世界30か国、1000人を前に仏のプレゼンスを誇示した。

最大の原子力大国・米国は国内で30年ぶりの原発新設が目白押しで、国際展開についてはWH・東芝、GE・日立という日米連合が軸となる。また、世界最大のエネルギー生産国、第2位の消費国になった中国は、原子力をエネルギー開発の主力に据え、「原子力開発は千載一遇の好機を迎えた」と表現するとともに、大増設する軽水炉の国産化、ウラン資源からFBR開発まで、自前による原子力技術大国を視野に入れている。

一方、UAEのプラント商談受注で一気に脚光を浴びた韓国は、「世界の原子力産業界の中で大きな役割と責任を果たすまたとない時期を迎えており、リーダーシップを執っていきたい」と自信に満ち、発言にも重みと貫録が増した。また、プーチン首相が大統領時代から原子力を将来の国家エネルギー戦略の柱に据え核燃料供給保証・核の国際管理さえビジネスとしてとらえるロシアは、政治的、軍事的パワーを背景にベトナム第1期商談を成約した。

人材育成で「日中韓連携」がアジアの主軸

さて原子力を新規に導入する国にとっても、原子力は温暖化対策に貢献しながら自国の経済発展を可能にする意味で、まさに将来にまたがる国家戦略の要である。ただ、これまでまったくベースがないだけに、インフラや法体系の整備、建設・運転資金の確保、国際的枠組みへの参画から始めなければならず、しかも何よりもそのすべてにかかわる人材確保が基礎的課題だ。

同時にこの人材問題は今、新規導入国のみならず原子力先進国にとっても世界共通の最も深刻な課題のひとつとして影を落とし、今後の原子力グローバル化ばかりか先端技術開発まで含めネックになるのではないかとの懸念が高まっている。

たとえば米国では、30年間も原発新設が途絶えていた間に、原子力関連技術者、周辺のサプライチェーン産業が散逸、再構築に時間がかかるため日本の協力・支援が不可欠といわれる。また、今年次大会では各国とも異口同音に人材不足が現実の課題になっていることを強調したが、UAEプロジェクトを受注した韓国にとってはひときわ深刻。また自国で建設ラッシュを迎える中国ともども「建設エンジニア不足は現場で半年〜1年訓練すれば対応可能なので心配ないが、問題は中レベルの現場監督クラス」と言い、大学での専門教育や企業研修、安全教育等を含め日中韓3国が密接に連携、その成果を来年報告することで合意した。

さらに、人材不足は原子力安全問題にも直結するだけに、IAEAは3月にアブダビで「原子力発電導入と拡大のための人材育成国際会議」を開き、65か国・8機関から300人以上が参加した。原産年次大会に出席した天野之弥IAEA事務局長は、「人材育成等を通じてあらゆる段階で新規導入国を支援する」と強調、日本の積極的な協力を要請した。

(編集顧問 中 英昌)


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