ドイツで噴出する参院無用論 原発運転延長問題で 木口壮一郎(ジャーナリスト)原子力発電所の運転期間を延長するのに、連邦参議院の同意は必要か−−こんな憲法解釈論争がドイツで起きている。 ことの発端は、5月9日のノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州議会選挙。ここでキリスト教民主同盟と自由民主党の国政与党側が、社会民主党と緑の党の野党連合勢力に敗北し、連邦参議院で過半数割れに追い込まれた。 ドイツ議会は二院制で、連邦議会と連邦参議院から構成される。参院は州の代表者会議であり、わが国の全国知事会の権限を大幅に強くしたような存在である。州の所掌事項に係わる事案だけを審議し、必要なら同意を与える。 ドイツに16ある各州には、参議院議員の人数が各々割り当てられている。たとえばNRW州は、6議席を持っている。これまで国政与党側がこの6議席を専有していた。だが同州選挙の結果、これが野党側にひっくり返り、メルケル政権は参院で過半数に及ばなくなった。 ここで突如、国政与党側から噴き出したのが参院無用論である。原子力発電所の運転延長に参院の同意が不要なら、たしかに連邦議会の与党多数だけで原子力法を改正し、運転延長を可能にできるだろう。その賛否をめぐって、国政与党内が真っ二つに割れている。 参院無用論の急先鋒は、ポファラ官房長官、バーデン・ビュルテンベルク州首相、ヘッセン州首相、バイエルン州環境相など原子力積極擁護派で、大物政治家がずらり並ぶ。彼らによると、現在の脱原子力政策を定めた原子力法改正時にも、当時の社民党/緑の党連立政権は、参院の同意をとらなかった。その先例にならえ、というわけだ。 一方、運転延長を可能にする原子力法改正を行なう場合、参議院の同意が必要と主張しているのが、レトゲン連邦環境相(=写真)、ザールラント州首相、チューリンゲン州首相などの慎重派である。彼らの言い分では、原子力発電所の運転を延長すれば、原子力監督や許認可など州の仕事量を増やすのだから、州の同意を得るのは当然である。ドイツでは、原子力施設の監督や許認可は、州が所管している。 ドイツ連邦政府は現在、4年、12年、20年、28年という4つの運転延長シナリオを想定して、その実行可能性を検討している。その成果を「総合エネルギー概念」としてまとめ、今秋にも発表することとしている。 しかし、レトゲン環境相は最近、最長8年しか延長を認めないと発言したり、原子力事業者に厳しい安全要求を課す提案をしている。同相のこうした「逸脱行動」(バーデン・ビュルテンベルク州首相)に対し、与党内の原子力推進派の怒りが頂点に達しているのが現状である。 メルケル首相は、足元で勃発したこの憲法論争に苦慮し、州首相会議を6月4日までに開いて、この法解釈問題を話し合うよう指示した。 これに対して、社民党のケルバー連邦議会副議長は5月20日、参院の同意を得ずに与党が運転延長を強行するなら、政治闘争に留まらず、違憲訴訟を憲法裁判所に提起していく、と圧力をかけた。 運転延長をするのに、参院の同意はほんとうに不要なのか。この議論の着地点がどうなるか、予断を許さない。ただ一つ言えることは、原子力法を改正して運転を延長しない限り、与党は政権公約を守ったことにならない、という点だ。(続く) |
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