原発運転延長問題で(2) ドイツの電力会社、戦々恐々 木口壮一郎(ジャーナリスト)

ドイツの原子力発電事業者にとって、メルケル政権は本来、頼もしい味方のはずである。

なにしろ1998年の反原子力連立政権の誕生から、昨年9月末の総選挙まで、原子力事業者はさんざん痛めつけられてきた。新規原子力発電所の建設は禁じられ、既存発電所も割り当てられた発電枠を使い果たせばただちに閉鎖となった。

そこで脱原子力政策の転換を訴えて政権交代したのだから、事業者にとって救世主となるのが当然のように思われた。

しかし、現実はそう甘くなかった。前回報告したような、国政与党勢力が参議院で過半数割れに追い込まれた、という事情を言いたいのではない。

原子力政策を積極的に推進していく、という力強い意気込みが、最初からメルケル政権に感じられないのだ。政権発足後すでに7か月余りたつのに、原子力発電所の運転期間延長問題で依然として迷走を続けている。将来の見通しが立たないことは、電力会社にとって、投資判断の観点から、非常に困ったことである。

たとえば、RWE社である。同社は、法定の強制閉鎖が間近に迫ったビブリスA原子力発電所の運転延長を図るため、なんと、廃止措置中の原子力発電所の余ったわずかな発電枠をE・ON社から買い取った。

メルケル政権が選挙公約どおり、原子力発電所の運転延長問題を早々に解決していれば、そんな姑息な手段を使わなくともすんだはずである。しかし、RWE社にとって、いつ、どんな形で決着するのかもわからない延長問題の結末を呑気に待っていられない。

ドイツの原子力事業者は、「安全である限り無期限に運転可能だ」と訴えている。現在、連邦政府が検討しているような、4年とか、28年とか機械的に延長幅を区切る考え方は、そもそも運転実務になじまない。

さらに、運転延長の交換条件として、政権側が必ず要求してくるであろう「戦利品」にも、電力業界は戦々恐々としている。連立与党は、反原子力的な世論におもねって、法外な拠出金を事業者にふっかけてくるかもしれない。

それだけではない。アッセ旧放射性廃棄物処分実験場のクリーンアップ費用を電気事業者に出させる方針が、現政権の連立協定書に明記されているのだ。この処分場は長らく放置されてきたが、規格外の廃棄物投棄が明らかになったり、岩盤崩落の危険が指摘されるようになった。

そこで現在、処分済みのすべての放射性廃棄物を地上に回収する方策が検討されている。その廃棄物の大半は、国営の研究機関で発生したもの。であるなら、民間の原子力事業者には直接関係ない話であり、その後始末を押し付けられるのは迷惑千万である。

そんななかドイツ原子力産業界は、屈指の原子力推進政治家を失ってしまった。ビブリスA発電所の立地するヘッセン州のコッホ州首相(与党キリスト教民主同盟副党首、52歳)である。5月25日に、一身上の都合から任期途中での政界引退を表明した。

原子力発電所の新規建設を口にするだけでも勇気のいるドイツ社会で、同氏は事あるごとに正々堂々その必要性を訴えてきた。ぽっかり空いたこの穴が想像以上に深いことが、やがて身にしみてわかるであろう。


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