【国家成長戦略 「原子力」を見据える】 東京大学大学院工学系研究科教授 田中 知氏に聞く 真のオールジャパンへ深化を 国家成長戦略の「横串」骨太に―民主党・菅新内閣が6月8日に発足、今月末に閣議決定予定の新成長戦略では「原子力発電」が環境対策、経済成長、途上国協力等に貢献する横串≠ニして表舞台に顔を出す。田中先生はこれまで、総合資源ネルギー調査会原子力部会長および国際戦略小委員長として原子力政策に携わり今、どのような思いか。 田中 いいことではあるが「国家成長戦略」という言葉は、まだ世の中の一般国民にあまり浸透していないように思う。本当にわが国が成長できるという実体が伴わないまま、言葉だけが先走っている。実体が伴うようにするには、もう1、2段掘り下げて考えておく必要があろう。 特に原子力の関係で見ると、中国、インド、ロシアやUAE、ベトナムなど原子力をめぐる国際情勢は様変わりしており、また核不拡散問題等も含めその実体をよく分析、理解したうえでどう対応するか、しっかり検証しておかないと、先に行って気が付いたら手遅れになるのが怖い。原子力には、沖縄の普天間基地問題が日米安全保障条約という重い実体があり言葉だけでは簡単に動かないのと似たところがある。原子力部会での議論でも「それいけドンドン」的意見も多いが、言葉だけでなく実体を伴っていかないと足下をすくわれる。ただ、原子力グローバル化が加速・深化する中、原子力を絡めた成長戦略・仕組みが今、非常に大事な政策の柱となろう。 ―原子力新規導入国への原子力プラント・ビジネスが国家間の総力戦となり、日本はオールジャパン体制で反転攻勢をかけているがどうか。 田中 民主党政権の政治主導で官民一体となりオールジャパン体制を構築、日本も仏、韓国、ロシアに対抗してトップセールス外交にも乗り出した。しかし、ここでも新たに電力会社が中心となり途上国向け原子力プラント受注窓口会社を設立するなど表面的な取り組みが注目を集める半面、中身をどうするのか実体が伴わない。原子力部会でもかなり前からオールジャパン体制が議論されてきたが、メーカー、電力会社、ゼネコン、商社など日本のさまざまなプレーヤーが集まり出身母体の顔色≠うかがいながら行動するだけに、限界がある。その限界を超えるようなものが真のオールジャパンだと思う。 原子力をきちんと中心に据えながら30〜50年の中長期的視点で取り組まないと途中で息切れするし、うまくいかない。また政治主導のトップセールスといっても、首相や大臣が先頭に立ち行動すれば一気に商談が転がり込んでくるわけではなく、国、9電力、3メーカー等の各プレーヤーが本当の意味で協働・共生する実体がないと言葉のみでは勝利できない。 さらに、国家成長戦略のキーワードである原子力の国際展開で一番の課題は、わが国の基本的外交戦略であり、それに絡む原子力外交だ。原子力の二国間協定にしても、アジア全体の平和を維持するというしっかりした地政学的観点も考慮した外交戦略・哲学が基本にないと、ただ突っ走ってもだめだ。また、国際展開の前に日本国内での原子力の位置付けを明確にし政策を持つ中で、相手国の特徴を生かした付き合い方が必要になる。 ―原子力グローバル化の最大の課題の1つに、人材教育・育成、国際協力があるがポイントは。 田中 先週、マレーシアでのワークショップでも話題になったが、中国や韓国では多彩な大学や技術者養成校を多数設立、仏もアレバが多くの技術者養成に力点を置く。日本もそれなりに努力しているが、もっと工夫が必要だ。何よりも肝心の国内に人材育成のハブ(拠点)がなく、有機的ネットワークにも欠ける。まずは「人材育成のオールジャパン体制」構築が急務であり、その中で日本は人材の規模でなく「どういう質の人」に重点を置くべきかを見極めながら、情報を密にし、海外との協力・共存に積極的に尽力すべきだ。 一方、原子力が政府の新成長戦略の横串≠ニして存在感を増している割には実体に乏しい。もっと骨太≠ネものにするには政治主導で声高にリードしても日本ではそれをフォローする仕組みができていないため「言いっ放し」に終わる。その殻を打破するには要望を出す産業界も政治家、役人と一緒になりたこ部屋≠ナ徹底的に議論を尽くし、発信する枠組みが必要だ。これも、いわば「オールジャパン」の一形態であり、今考えないと間に合わなくなろう。 (編集顧問 中 英昌) |
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