ドイツの廃棄物処分問題 地上回収論を封印せよ 木口壮一郎(ジャーナリスト)

ドイツ・ゴアレーベン岩塩鉱の地下調査は今後、円滑に進むだろうか。

高レベル放射性廃棄物深地層処分場の最有力候補地である同鉱の調査再開は、原子力発電所の運転期間延長と並ぶ、ドイツ連立政権の二大原子力公約の1つである。

2001年の脱原子力協定で、最長10年間の調査凍結が明記された。放っておいても、まもなく自動的に凍結が解除される予定であったが、レトゲン連邦環境大臣が3月、前倒しで公式に解除した。

この政府の積極姿勢をみれば、運転延長問題に比べて、国として多少なりともやる気がある、と判断できる。

候補地として選定されたのが1977年だから、かれこれ30年を超える長期プロジェクトである。同年から2007年までに要した調査・保守管理費の総額は、15億1000万ユーロ(約1700億円)に達し、その96.5%をドイツの電力会社が負担してきた。

ゴアレーベン問題は、地元と反対派の動向がカギを握りそうである。

地元のリュッヒョウ・ダンネンベルク郡議会は4月、僅差とはいえ調査再開反対を決議してしまった。また、反原子力運動のこの聖地では、デモや妨害行為が日常茶飯事になっている。

5月末にも、デモ隊の跳ね上がり分子が、管理棟の金網の柵を切断、出入口を破壊し、敷地内に侵入した上、窓ガラスを叩き割る事件が起きたばかり。ドイツの反対運動は、必ずしも平和的とは限らない。地下の調査が現場で再開すれば、絶えずこのような妨害行為に悩まされ続けるだろう。

社会民主党や緑の党といった反原子力野党も、もちろん黙っていない。彼らは、連邦議会にゴアレーベン調査特別委員会を設置して、候補地として指定されるにいたった歴史的経緯を徹底的に調べている。

当時のH.コール保守政権が、調査報告書の結論に横やりを入れて、適地といえないゴアレーベンを適地として書き換えさせたのではないか、との疑惑が指摘されたためである。

ドイツの原子力発電事業者は、そのような地元や反対派の動向に神経をすり減らしている。さらに追い討ちをかける悩みが、じつはアッセ旧処分実験場問題である。

前回報告したように、アッセでは、処分済みの廃棄物をすべて地上に回収する方策が検討されている。しかし、アッセの教訓を生かして、将来の処分場の場合も、すべて回収可能なように設計、建設、保守せよ、という要求が、野党を中心に強まっているのだ。

いつ、いかなるときでも廃棄物を地上に引き上げられるよう怠りなく準備すべし、という要求条件は、100万年の安全証明を求めるドイツの厳しい処分場安全要件にさえ入っていない。もしこれが追加されれば、法外の、採算に合わない保守管理費が長期にわたってかかることとなり、原子力発電コストが暴騰してしまうおそれさえある。

ドイツ原子力事業者の本音としては、この全面地上回収論がゴアレーベンに飛び火する前に、その議論をメルケル政権になんとか封印してもらいたいところだ。

じつはこの点こそ、ドイツの廃棄物処分問題をめぐる攻防戦の、隠れた最も重要な争点にほかならない。


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