【論人】 秋庭 悦子 原子力委員 原子力発電のもう1つのリサイクル

「クリアランス」と聞くと、商店やデパートの「クリアランスセール」を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。原子力発電所の解体や運転に伴って発生する廃棄物のうち、放射性廃棄物として扱う必要のないことを「クリアランス」といい、その基準を「クリアランスレベル」という。クリアランスレベルは年間0.01ミリシーベルトであり、私たちが日常生活で受ける自然放射線の100分の1以下である。わが国では2005年に炉規制法を改正してクリアランス制度を設けた。これによって、クリアランスレベル以下のものは、普通の産業廃棄物と同じ扱いになり、原子力発電所を解体した時の廃材のうち、実に98%程度はリサイクルできる資源となる。原子力発電のリサイクルというとプルサーマルを思い浮かべるが、建物や機器など設備のリサイクルも大きな課題となっている。

さて、わが国では2030年頃から本格的な廃止措置時代を迎えると予想されているが、このときに出る大量の廃棄物について、貴重な資源として有効に使うためには今からしっかりと取り組まねばならないと考えられたのが、前原子力委員の松田美夜子先生である。昨年11月、松田先生は英独の廃止措置の現場やクリアランス関連企業に視察に行き、その報告会を開催された。これがきっかけとなって関係各省庁、電気事業者、研究機関、有識者などが自由に参集して、「廃止措置とクリアランスに関する交流会」が松田先生の私的な勉強会として始まった。そして、今年1月、私が原子力委員に就任して、松田先生から引き継ぎ、第2回交流会から担当させていただいた。おかげさまで、交流会は回を重ねるごとに参加者も増え、ちょうどNHKテレビで「原発解体〜世界の現場は警告する」という番組がオンエアされたこともあって、白熱した議論も展開されるようになった。

リサイクル利用は、現在商用原子力発電設備に焦点が当たっているが、廃止措置は大学、研究機関、民間の所有する研究炉においても行われつつあり、これから発生するクリアランス物のリサイクル利用を進めていくことが求められている。また、放射性同位元素を扱う施設についてもクリアランス制度を導入することになっており、今国会で放射線障害防止法の改正が成立したところである。さらに廃止措置だけでなく、原子炉の運転中に生じた廃棄物もあり、これも除染などを行うことにより、リサイクル利用することは可能である。つまり、原子力発電所は実は「資源の宝の山」といえる。

交流会では、様々な意見が述べられたが、リサイクルを推進するには次の3点が重要と認識された。「クリアランス物の利活用等の仕組み構築」「これを支える関係者の役割及び制度的な仕組み」「クリアランス制度への国民の理解促進」である。これらは相互に関連しながら機能していることが理解された。

現在、クリアランス物は排出者の限定利用であるが、将来的にフリーリリース(制約なしの市場開放)になると、排出事業者から集荷処理事業者→溶融処理事業者→製品加工事業者そして一般消費者に届くという流れになる。集荷、溶融、加工業者が安心して事業ができる環境にするためには、自治体や地域住民の納得や理解が重要であり、関係省庁や事業者が連携して取り組むことが必要となってくる。その方策として、日本原子力発電の東海発電所のクリアランス物から作られたベンチを官庁や各都道府県庁などに設置して、一般市民の理解を進めることも提案されている。

いずれにしろ、リサイクル推進のため、最も重要なことは国民への理解促進であるが、残念ながらクリアランス制度が国民的に分かり難い制度であり、「クリアランスという用語が誤解を得やすい」という意見もあった。どうやら「宝の山」を開く鍵は、「国民の理解」ということである。

交流会では今後も年間3、4回開催し、関係者の情報共有をしていくことになっている。


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