京大研究炉運転を再開 燃料濃縮度20%未満に低減 ホウ素中性子捕捉療法などで期待高まる 産官学連携し先進的研究拠点へ

京都大学原子炉実験所(大阪府熊取町)は、1963年に全国大学の共同利用研究所として設立され、研究用原子炉KUR、臨界集合体実験装置KUCA、電子線型加速器、Co60ガンマ線照射設備、イノベーションリサーチラボラトリなどを備えた原子力人材育成の拠点となっている。今年5月に原子炉KURが4年ぶりの運転を再開した同実験所をこのほど訪れ、中島健教授らに話を聞いた。なお、この様子は8月に原産協会ホームページで、動画でも配信予定。 (中村真紀子記者)

―今回の原子炉運転再開にあたり、構造や燃料などで以前と変わったところは。

核セキュリティ上の配慮から燃料組成を変更した。ウラン235の濃縮度を93%から19.75%へと低減し、ウラン密度は0.58gU/立法センチメートルから3.2gU/立法センチメートルへ増加。ウラン・アルミニウム合金からウラン・シリコン・アルミニウム分散型燃料材へと変更した。燃料要素の形状や寸法は変えていない。

―現在KURで研究が進められているホウ素中性子捕捉療法には、どのような特徴があるのか。

ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、ホウ素を含む薬剤をガン細胞に選択的に吸収させて、そこに原子炉からの(熱)中性子を照射することにより、ホウ素が中性子を捕捉(捕獲)してアルファ線とリチウムイオンに分裂し、これらがガン細胞を破壊する。適切な薬剤を使用すれば、周りの正常細胞にはほとんど影響を与えることなくガン細胞を破壊することが可能である。

なお、これまでBNCTは原子炉のみで実施されてきたが、原子炉実験所では加速器によるBNCT実施のための研究開発を進めている。

―原子炉の共同利用について、現状と展望は。

原子炉実験所は、全国の大学および国公立研究機関の共同利用研究所として研究者に開放されており、毎年研究の公募を行っている。KURが運転を再開した今年度は約150件の共同研究が行われている。

また、海外の研究機関とは協定を締結し、人材交流も含めた共同研究を実施している。

企業とは、これまで委託研究の形での実施が主であったが、現在は共同研究としても参加できるようになり、今後はその数が増えることが見込まれる。

もう1つの原子炉であるKUCAでは、共同利用と並行して、原子力人材育成のための原子炉実験教育を行っている。これは、京都大学を含む国内の原子力系学科を有する12大学(京都大学、北海道大学、東北大学、東京工業大学、東京都市大学、東海大学、名古屋大学、福井大学、大阪大学、近畿大学、神戸大学、九州大学)、韓国の6大学、およびスウェーデンの1大学の学生を対象とし、1週間の実験期間中に原子炉物理学に関する基礎実験と原子炉の運転実習を行うものである。この教育は1975年より実施しているが、本年6月に参加学生数の累計が3000名に達した。

―研究炉で使用する燃料について、米国への輸送と費用などはどのような交渉内容になっているのか。

米国エネルギー省(DOE)と京都大学の契約に基づき、使用済み燃料を米国に返送している。

引き取りに関する交渉としては、2000年代の初めに、各国の事業者が協力して米国が当初提示していた引き取り期限の10年間延長を実現した経緯があり、京都大学もこの交渉に参画した。

現在の契約では、2016年までに取り出された使用済み燃料を2019年までに引き取るという内容である。

なお、2007年から2008年にかけて実施した高濃縮ウラン燃料の最終輸送を含め、原子炉実験所が予定していた7回の輸送をスケジュール通り実施したことは、DOEから高く評価されている。

―関西国際空港の地元である大阪府熊取町に、産学官連携で国民生活に貢献する原子力科学の研究・教育・情報の拠点を形成することをめざす「熊取アトムサイエンスパーク構想」について、現在の取り組みおよび今後の計画は。

原子炉実験所の先進的な研究成果を社会に還元する仕組みを構築することを目的とし、熊取町・大阪府・京都大学の三者で取り組んでいる。これまでに2回のシンポジウムを開催した他、施設見学会を実施してきた。

このパーク構想の一環として、2009年10月には「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)研究会」を設立し、記念講演会および第1回研究会を開催した。この研究会は、産官学が連携した先進的ガン医療拠点の形成をめざすものであり、BNCTの早期実用化に向けて、諸課題の解決方策を検討している。

BNCT研究会では、連携推進WG(事務局―大阪府)、研究開発・産業振興・人材育成WG(事務局―京都大学)、地域振興WG(事務局―熊取町)の3つのワーキンググループが活動を行っている。京都大学が事務局を努める研究開発・産業振興・人材育成WGでは、BNCTに必要な人材(医学物理士など)育成のための検討を行っている。


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