【日米協定の検証】 日米原子力協定の成立 経緯と今後の問題点〈第2回〉 遠藤 哲也 元原子力委員会委員長代理、元外務省科学技術担当審議官 レーガン政権の成立と原子力政策―― 日米原子力協定交渉の開始

〈レーガン政権の原子力政策〉

1981年1月に成立したレーガン政権は、すでに述べたとおり核不拡散は米国の安全保障と世界の平和のために重要であり、その努力は継続されるべしとするもので、この点は米国の政権にとって超党派的な政策である。しかも1978年に成立した核不拡散法(NNPA)は厳然と存在しているので、レーガンもこの法律には縛られていた。だが、レーガン政権が前のカーター政権と違うのは、原子力平和利用の分野で同盟国、友好国からの信頼を回復する点にあった。このような新しい雰囲気の下で、カーター政権の4年間、ケース・バイ・ケースの一時的な解決に甘んじて来た日本としては、諸提案を長期的かつ予見可能な形で一気に解決したいという気持ちが強くなってきた。

レーガン大統領の発表した核不拡散政策(1981年7月)およびその実施細目としての米国対外原子力協力方針(1982年6月)の骨子は次のとおりである。

(1)米国は適切な保障措置の下で、原子力平和利用分野での協力において信頼性のあるパートナーになる(原子力協定に基づく輸出申請、承認申請を速やかに処理することなど)。

(2)進んだ原子力計画を有し、核拡散の危険がない諸国において再処理およびFBR開発を妨げない。

(3)米国がNNPAの要請に従って原子力協定の改正に従って米国の規制権の拡大を行う際には、日本およびユーラトム諸国に対しては、「包括同意方式」を導入するための取極めを提案する。

このような米国の基本方針に沿って日米間でも次の点が合意された(1981年10月)。

(イ)1984年末までに、「長期的取極め」を形成する。

(ロ)それまでの間、東海再処理施設のフル稼働が認められる。

(注:東海再処理施設の運転期間、プルトニウム抽出量に関する共同決定は、1977年9月の最初の決定以来、細切れに5回延長されていた。)

(ハ)商業規模の再処理工場の建設についても「主要な措置はとらない」との従来の制約をなくする。

〈日米原子力協定交渉の始まりと行き詰まり〉

政権によって考え方の違う米国の核不拡散政策によって、これまで日本の原子力政策は直接影響を受けて来た。すでに述べたカーターの政策による東海再処理問題がそうであったし、MB#10による使用済み燃料の英仏への搬出もそうであった。従って、レーガン大統領の対外原子力協力方針によって、米国より日本とユートラム諸国に対して「包括同意方式」が提案されたことは、日本側としても待ってましたというわけで、ここに交渉の幕が切っておとされることになった。日本側は宇川秀幸・外務省科学技術審議官が代表、筆者は当時国連局参事官であったが、次席代表として、米側はリチャード・ケネディ無任所大使(国務省次官)が代表であった。1982年8月から84年9月まで10回の代表レベルの協議が行われたが、特段の進展は見られず、交渉は行詰まりの状態が続いた(協定交渉フェーズT)。

交渉はなぜ難航したのだろうか。1つは、米側の態度にあった。米側は包括同意方式を導入するためには、NNPAに規定されているすべての要件が満たされなければならないとして、1968年の日米協定には含まれていなかった例えば次のような新たな規制を要求してきた。しかも規制権の拡大は行政取極などによる日本側の政策意図表明では駄目で、協定に基づく法律的なコミットメントでなければならないとした。

(1)平和目的爆発の「研究」の禁止
(2)高濃縮(濃縮度20%以上)に関する事前同意
(3)プルトニウム、高濃縮ウラン等に関する事前同意
(4)核物質防護措置(PP)
(5)米国提供の施設、材料から作られた派生物質に関する規制
(6)機微技術に関する規制
(7)輸出規制(第三国移転に関する事前同意の対象範囲の拡大)

今1つは、日本側の態度であった。日本としては「包括同意」の導入は大いに歓迎するが、その代償として米国が一方的に国内法(NNPA)を作り、それを他国に押しつけるのははなはだ釈然としないという感じがあった。また政策の意図表明ならともかく、要件を義務として受け入れるためには協定の改定が必要であり、それには国会承認が必要であった。ところが国会承認となると、原子力の平和利用のみならず、それに関連して日米間のもろもろの核問題が取り上げられ、大きな政治イッシューとなりかねないので、何とか国会承認を必要としない行政取扱で処理できないだろうかと考えた。

これが当時の政府関係機関および関係業界の一般的な考え方で、ともかく行政取極によるアプローチで、できるだけ押してみようとの方針であった。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで