放射線作業者の被ばく一元管理 第21期日本学術会議 基礎医学総合工学委員会合同 放射線・放射能の利用に伴う課題検討分科会 委員長 柴田 徳思 国際的にも被ばく履歴求められる 原子力従事者 放射線従事者 省庁越え登録統一を

1.はじめに

第21期日本学術会議(基礎医学総合工学委員会合同放射線・放射能の利用に伴う課題検討分科会は平成22年7月1日付けで提言「放射線作業者の被ばくの一元管理について」を公表した(この提言は日本学術会議のホームページからダウンロードできる)。

放射線作業者は、原子炉等規制法、放射線障害防止法、医療法、電離放射線障害防止規則等で規制されている施設で、放射線作業に従事している。これらの施設で作業している全放射線作業者の被ばくの一元管理は、今もって実施されていない。これは、それぞれの法令を所掌する省庁が多岐にわたることも関係している。一元化されていないことに伴う課題を挙げ、一元化に向けた提言を行った。

ここで言う被ばくの一元管理とは、(1)放射線作業者個人ごとの、法的管理期間内(5年間および1年間)の被ばく線量、及び放射線作業の開始時点からの生涯線量(累積線量)を一括して把握できるようにすること、(2)原子力施設、医療施設、工業施設等あらゆる原子力・放射線利用の領域で業務に従事している、あるいは、従事していた全放射線作業者の業務上の被ばく線量を包括的に把握できるようにすること――である。

2.現状の課題と問題点

現状での課題として、(1)雇用の多様化による短期間での事業所の移動や短い期間に共同利用施設など異なる複数の施設で放射線作業がなされるなどの状況の中で、線量限度の上限値に対する管理が困難になっていて、線量限度を超えて被ばくをしている放射線作業者の存在が確認されているにもかかわらず、法的に必要な措置さえとられていない状況がある

(2)被ばく線量の把握システムを公的機関等で確立することの必要性に関しては、わが国で商業用の原子力発電が始まった昭和40年代前半に、原子力委員会等から提言されてほぼ50年も経過しているにもかかわらず、一元的な管理は未だに実現していない――ことを挙げた。

問題点として、次の3点を挙げた。

(1)昭和52年に、原子炉等規制法の適用を受ける事業者を対象にした被ばく線量登録管理制度が発足し、原子力施設で働く放射線作業者の被ばく線量の情報を個人ごとに一元的に把握、管理するための運営機関「放射線従事者中央登録センター」が設置された。しかし、この制度では、登録制度に参加する原子力事業者の施設以外の放射線施設に立ち入った場合の被ばく線量は登録・集計されておらず、完全な一元管理となっていない。

(2)昭和59年には、放射線障害防止法の適用施設を対象とした「RI被ばく線量登録管理制度」が発足した。しかし、法的な強制力がないことから、対象事業者約5000事業者のうち、制度への参加は約30事業者にとどまっており、放射線作業者の実数すら把握できていない。特に、全作業者の50%を占めていると推定される医療領域の放射線作業者に関しては、その正確な人数さえ把握されていない。

(3)法的管理期間内および生涯の被ばく線量を把握するためには、放射線作業者の被ばく前歴を確認しなければならないが、法的には、健康診断の際の問診で把握することが規定されているだけであり、記録がない場合は申告でもよいとされているために放射線作業者の被ばく前歴の精度は低く、線量限度が遵守されているという保証は乏しい。

さらに、原子力・放射線利用の先進国においては、被ばくの一元管理を国レベルで実施している国が多く、これらの国の原子力・放射線関連の施設で作業する場合には、信頼性の高い被ばく前歴の提供が求められる。わが国においても国際的に通用する信頼性の高い被ばく線量記録を提供できる体制を整えなければ、研究活動のみならず、経済活動にも支障をきたすおそれがあるとし、これらを是正するために以下の提言をまとめた。

3.提言等の内容

(1)行政に対する提言

(1)放射線作業者の被ばくの一元管理の必要性について認識すること:原子力・放射線の利用に際しては、放射線作業者の安全・安心のための被ばく管理は最も重要な基本事項の1つである。国は、放射線作業者の被ばく線量を一元的に管理するシステム確立の必要性を十分に認識し、具体的な方法を法令等で規制し、徹底していく必要がある。

(2)関連法令の改正等:被ばくの一元管理を実現するためには、以下の法令等の改正が必要である。(ア)施設管理者に被ばく線量を国へ報告させることの制度化、(イ)認証済み線量測定サービス制度等の制定、(ウ)被ばくの一元管理に必要な情報に関する個人情報保護法の適用除外。

(3)放射線作業者の被ばくの一元管理を検討する場(検討会等)を設定すること:被ばくの一元管理に関しては、所管する省庁、関連する法令及び事業者が多いことから、府省横断的な検討会を設置し、本報告書で提言した方策を含め、一元化にむけた具体的な方策の検討を開始すべきである。

(2)関連学会に対する提言

(1)医療放射線安全に関連した学会に対する提言:放射線診療従事者の定義の明確化(2)日本保健物理学会、日本原子力学会等に対する提言:被ばくの一元化の実現に向けた理解と協力――を挙げている。

4.おわりに

放射線作業者の被ばく線量は、大手の原子力・放射線事業者および測定サービス会社で測定されており、被ばくデータもこれらの事業者および会社に保存されている。これらのデータを国の定めた登録機関へ送付し、個人ごとに積算することにより、一元管理が実施できる。現在まで保管されている被ばく測定記録が散逸する前に、被ばくの一元管理の体制が整うことが強く望まれる。


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