【論人】「気を付け」「休め」のバランス 橋詰 武宏 仁愛大学人間学部教授(元福井新聞論説委員長)

まだ生徒だったころ、朝礼などで、「気を付け」「休め」の号令があり、私たち生徒は一斉にさっと行動をとり、謹厳な校長先生の長い話を聴いた。長くなると、貧血で倒れる生徒がいた。床張りの室内運動場に倒れる音が響き、私たちは、話を聴くどころではなく、ひたすら終わりを待った。朝礼の時間は苦痛だった。どんな話にも伝える時間の長さ加減、バランスの大切さを感じたものだ。

こんな昔の思い出をふと頭に浮かべたのは、先ごろ第1回の福井県行財政改革推進懇談会が開かれ、県側の説明を聞いていたときである。現在進めている行財政改革実行プランが来年4月で終わる。その後の新しいプランを策定するに当たり意見や助言を出す会である。私は委員に選ばれ、座長を務めることになった。今、県が進めている行革をいったいどこまで突き詰め、進めていったらいいものか、やはり、どこかにバランス感覚が必要ではないかと思う。

懇談会なので、各委員は県の行革について日ごろ思っていることを自由に活発に述べることに意義がある。第1回ということもあり、県側がこれまで取り組んできた行革について縷々(るる)説明があった。県の行革への取り組みは今に始まったわけでない。平成7年の行革大綱から現在の実行プランまで、熱心に取り組んでいる。

例えば現プランの来年4月までの6年間で、一般行政部門で定員の10%、県全体で5%を削減するとか、出先機関、外郭団体の廃止統合などで成果を挙げている。適正化、効率化をさらに進めていこうとする方針を聞いた。職員の人員は減らされ、給与はカットされ、仕事は厳しくなる。これで職員のモチベーション、モラルは大丈夫なのか、という懸念である。

民間企業からの委員からは、職員の危機意識の乏しさが指摘された。民間企業では、従業員のモチベーションが一番高まるのはたいてい、企業の経営が一番厳しいときだという。地方自治体の経営が厳しい今こそ、職員のモチベーションが高まるのは当然で、そう期待するという意見である。

地方自治体の経営という視点では、まさにピンチのときで、こういうときこそ効率化、合理化、集中化をさらに徹底しなければならない。職員のモチベーションは高まってしかるべきだという理論は成り立つ。

県がこのほど発表した2009年度県税収入は、前年度を大きく割り込んで、18.9%減、928億700万円になった。実に210億6400円も減って1000億円の大台を切った。減少率は平成に入って最大規模である。やり繰りしながらしのいでいる県の財政状態はきわめて厳しさが増している。数値を見る限り、行革を進めることは必至である。

それは県だけにとどまらない。原子力発電所立地市町はこれまで交付金関係で財政を潤してきたが、もはや、その恩恵に浴する時代は終わりを告げてきた。福井県内には、地方交付税を受けないで手前で財政を賄ってきた自治体があったが、国の2010年度交付税大綱では、敦賀市、おおい町もついに普通交付税を受ける団体になる。原子力を立地していても自力では成り立たない時代に追い込まれている。

このような背景を受けながら来年4月からの新たな行革指針に対する意見、助言を私たちは出していく。その際、さらなる推進一方で果たして真の地方行政の円滑な運営ができるかという懸念である。やはり、行革推進の中にバランス感覚が求められるのではないかと思う。職員も人間なのである。やる気のでる環境を整えていくことにも十分な配慮がいる。

そこで思い出したのが、冒頭の「気を付け」と「休め」のバランスだ。「気を付け」の緊張が長引くと心も体も疲れ、職員どころか、福井県という小さな地方自治体は貧血で倒れるだろう。「休め」の環境も取り入れながら、仕事の効率とやる気が起こる行革でありたいと願うのだ。このバランスを行革推進懇談会の中でどこまで議論できるか。新たなプランには、新たな感覚を盛り込みたいと思っている。


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