【日米協定の検証】 日米原子力協定の成立 経緯と今後の問題点〈第7回・最終回〉遠藤 哲也 元原子力委員会委員長代理、元外務省科学技術担当審議官 協定の評価と今後の問題点

〈協定交渉をふりかえっての気付きの点〉

(1)この協定は、結果的に日米双方にとって満足すべきものであったと思う。日本にとってはこの協定の2つのねらい、すなわち1つは英仏からの返還プルトニウムの輸送の問題であり、今1つは核燃料サイクルのプロセスで包括事前同意を得ることであったが、この2つとも満足すべき結果を得たからである。他方、米国にとっても同様に満足すべきものであったと思う。NNPAの条件を日本側に受入れさせたこと、カーター時代に傷つけられた日米原子力関係を修復させたからである。

(2)波乱万丈の日米交渉であったが、結果的に成功裡にまとまったが、その背景は何であったのか。1つには、核不拡散体制に対する日本の真摯な行動が認められたことにあると思われる。それは日本自身が保障措置を厳格に受入れてきたばかりでなく、世界の保障措置体制の強化に貢献してきたことにある。だが、一番大切なことは、日米間の信頼関係、特に中曽根・レーガンの個人関係であったと考える。1980年代は経済摩擦も少なからず存在したが、安全保障面での日米間の結びつきは強固であった。この点はいくら強調しても強調しすぎることはないと思う。

(3)日本側がオール・ジャパンの体制で交渉に臨んだことも成功の一因としてあげられる。政府側の交渉関係者としては、外務省、通産省、科技庁、原子力委員会であったが、それぞれ交渉に臨む立場には小異はあったものの、大同団結して事に臨んだ。政府と民間の連携も非常によく、二人三脚で交渉にあたった。電力の役員が政府の交渉団に専門員として出向したり、ハイレベルの電力ミッションを派遣したり、米国のコンサルタントを活用して情報収集などにあたった。官民の二人三脚の協力の好例として「原子力国際問題等懇談会」の活動があげられる。これは形は原子力委員会の下に設けられたが、実際は名実ともに官民一体のもので、土光敏夫経団連会長を座長に各界の錚々たる有力者が参加し、庶務は日本原子力産業会議、実際の運営は民間の座長による幹事会がとり仕切った。

(4)次に強調しておきたいのは、米国議会の力の強さであった。米議会には核不拡散問題について強硬な意見を持つ議員が少なくなく、特に民主党に多かった。多くの議員は原子力問題にそうくわしいわけでなく、その態度は有力な核不拡散派の議員の意見に左右されることが多かった。

この協定の成否は、極限すれば議会の核不拡散派との戦いであったと言えるかもしれない。

(5)最後に一点だけ筆者の印象を付け加えると、この協定に対する米政府の判断基準が安全保障(核不拡散はその一面)であったのに対し、日本側はエネルギー問題であり、関心の方向がずれているように感じられた。

〈今後の問題点〉

日本としては、この協定をそのまま20年ないし30年間延長する法律的手続をとるのが得策と考える。だが協定延長の問題は、寝た子を起すおそれがなきにしもあらずなので、熟慮の上慎重に対処すべきである。

(1)一番懸念されるのは、第二再処理施設の包括同意への追加であろう。協定上は、追加の自動性が認められているので、「保障措置概念」に沿った事務的な手続きがとられれば良い。しかし、本当に大丈夫だろうか。政策判断が介入することはないだろうか。濃縮については、現行協定では20%未満については規制の対象になっていないが、近年再処理および濃縮に国際的な規制をかけようとする動きがあり、日本はこれまで例外扱いされているとはいえ要注意である。

また2014年に期限の到来する米韓原子力協定の帰すうが、日米協定にどうのように関連するか心配である。

(2)それでは、日本として基本的にどのように対処していくべきか。

1つは、核不拡散、核セキュリティの分野において、日本が国際的な貢献をすることである。国内的に保障措置を厳守することは言うまでもなく、国際的にも保障措置、核セキュリティ強化への協力、核拡散抵抗性技術の開発、核燃料サイクル(フロント・エンドからバック・エンドまで)の国際化への貢献などでイニシアティブを発揮することである。

2つは、原子力分野で日米間の協力を一層積極的にすすめることである。日本は、非核兵器国の中でフル・スケールの核燃料サイクルを認められている唯一の国である。(インドの立場は微妙であるが)日本は、この立場を既得権視して、この上にあぐらをかいているべきではない。

3つ目は、これはすべての前提と言えるが、日米間の信頼関係である。本稿で詳しく述べた日米協定交渉史からみても、日米原子力協定成立は堅固な日米関係に基づくものであり、特にレーガン・中曽根両首脳の個人的な関係に負うところが少なくなかったと思う。

4つ目は、米国においては、議会の力が強いので、上下両院の議員、その背後にある議会スタッフ、シンク・タンク等の核不拡散に対する見解、動向を官民協力してしっかりとフォローすることである。(了)

(注)本稿のより詳細な内容は、近く(財)日本国際問題研究所より小冊子が刊行される予定なので、それを参照されたい。


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