【原子力発電「人材育成の息吹(1)】−国内編/国際編− 総論(上) 文部科学省研究開発局原子力課長 篠崎 資志氏に聞く 原子力教育「ルネサンス元年」 戦略的人材育成で公募支援

―篠崎さんは原子力課長に就任間もないが、大学の「原子力教育ルネサンスの今」をどう見るか。

篠崎 大学では原子力工学を専攻、卒業後、科技庁へ入庁。その年にはチェルノブイリ事故が起き、その後も、美浜原発の蒸気発生器破断、「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故など国内外で事故が相次いだのに呼応して、大学の工学部・研究科から「原子力」の名がどんどん消えて行き、原子力教育も冬の時代≠ェ続いた。そういう時代を見てきただけに、最近、通勤電車内で新たに原子力専攻講座を開設、外部にアピールする大学の宣伝ポスター等を目にすると感慨深いものがある。

ただ、「原子力教育ルネサンス」といっても、今年度「原子」という語を冠する学科は大学3校、大学院6校(84年にはそれぞれ10校、9校)にすぎない。また、大学での取り組みも個々の大学内にとどまっていて外部につなげ発展させるところにまで至っていないと感じている。

したがって、今の個々の大学での原子力教育ルネサンス活動を徐々に盛り立てながら大学間、さらに産業界や行政とのネットワークを有機的に築いて1つの大きなコミュニティーをつくることが、社会的認知を得る道筋にもなると思う。これが今、経産省や原産協会等の協力も得ながら進めている「原子力人材育成ネットワーク」構想だ。

―同構想は遅れ気味なのでは。

篠崎 文科省では「国際原子力人材育成イニシアチブ」を今年度から開始、具体的な提案を8月31日〜9月27日で募集中だ。

これは原子力平和利用が世界的に拡大する中、国内外の質の高い原子力人材を育成するため産学官の関係機関のマルチな連携で効果的、効率的かつ戦略的な人材育成体制を支援する制度で、今後関係するいろいろな人たちとも議論しながら具体的な仕組み作りを進めていきたい。

また、国内外から優秀な人材を集めるには、理想や理念を唱えるだけでなく、今の学生の視点に立ち、自分はどういう仕事に就けるか、それにより社会的にどう認知されるかといった切実な思いをしっかり受け止められる仕組みづくりが重要。原子力の場合は、今後、国際戦略やグリーンイノベーションという形での低炭素社会づくりという国全体の方針の下、その中で一定の役割を担うだろうし、現にそうしたモチベーションは行政だけでなく産業界、学界含めて高まっていると見ており、その流れの中でうまく位置づけて行くことが大事だと考える。

その意味で、私は今が原子力教育を社会的に盛り上げるルネサンス元年≠ナはないかと考えている。ルネサンスというのはある時突然起こるように見えるが、そのための布石は相当前から存在しているわけで、原子力でもこれまでの厳しい時代の積み上げ努力・蓄積がこれからまさに花開くという時代になったのだと思う。

―「国家戦略としての原子力」における文科省のスタンスは。

篠崎 今、成長戦略としての原子力で一番大きな課題は原子力プラントをいかに海外に売るかにあるが、文科省のミッションはプラントそのものよりは核不拡散、安全確保、バックエンド対策等の視点でしっかり人材等の基盤を支えることにある。

売り手と買い手の交渉とは別に、他の国々に迷惑をかけないための安全の確保や核兵器転用疑念を払しょくできるような仕組みとセットでプラント輸出を考えていくべきであり、第三国を含めた国際社会がどのように受け止めるかを無視してはならない。文科省では来年度予算でそうした視点からの具体的な取り組みも検討している。

もう一点、特にこれからの原子力の世界では自分の専門分野を持ちながら、それ以外の一般分野も俯瞰的に理解できるT字型の人材≠ェ必要だと思う。物事をピンポイントで見るだけでなく、全体像をはっきり認識しながらしっかり見ることができるような能力を備えた人たちが必要となる。

以前、地域のコミュニティーづくりをしている人たちから、「原子力村≠ヘ閉鎖的で大変ですね」と言われたことがある。原子力関係者もいろいろ努力していると思うが、まだこういう認識を持つ人もいることを真剣に考えておく必要がある。

―初等中等教育についてはどうか。

篠崎 本当の意味で一般の人の理解、信頼を得るには、初等中等教育段階から原子力を含めたエネルギーについて利点と欠点の両面の正しい知識を習得し、それに基づく思考力・判断力を育成することが大切だが、これが着実に行われるには長い年月が必要となる。このほど、08年に小・中学校、09年に高等学校の学習指導要領が改訂され、エネルギーに関する内容の充実が図られ、11年度から順次実施される。

そこで、教育現場でこうした改訂が円滑に進むよう支援するため、小・中学校の児童生徒向けの原子力に関する副読本や教育職員向けの副読本解説書を作成し、さらに、カリキュラムやワークシート、映像コンテンツなどの副教材の整備・提供を行うとともに、副読本活用授業や実践事例などのセミナーを行っているところである。

他方、理科は苦手かもしれないが潜在的には好きという子供は結構多い。学校の授業が科学の面白さを引き出すのではなく、数式の計算に終始し科学への魅力≠しなびさせる要因にもなっているとの批判もあることから、そういう科学への興味をもち、これからの原子力を担っていく子供たちを、どう盛り立てていくかの仕組み作りにも知恵を出していきたい。


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