「原子力の日」記念 第42回高校生小論文 私たちの主張−原子力を考える日本原子力文化振興財団と日本原子力研究開発機構は、26日の「原子力の日」記念第35回中学生・第42回高校生小論文コンクールの入選者を発表した。今年度は、中学生が、「地球環境から考える原子力の役割」、「限りある資源と私たちの未来」、「私たちのくらしと放射線」、高校生が「エネルギー・原子力から地球環境を考える」、「世界のエネルギー事情と原子力の役割」、「放射線の可能性と私たちの未来」をそれぞれ課題として募集し、中学生4388編、高校生896編の応募があった。本紙では、高校生の部の文部科学大臣賞、日本原子力研究開発機構理事長賞、日本原子力文化振興財団最優秀理事長賞を受賞した3作品を紹介する。 【文部科学大臣賞】瀧川学園滝川第二高等学校(兵庫県)3年 田中 藍子 原子力発電が創る未来 私は真剣に考えた。「果たして原子力発電は本当に必要なのだろうか?」と。 私はこの論文を書くまで、原子力発電には反対だった。なぜなら、私は坂本龍一氏による「ストップロッカショ」というプロジェクトに賛同していたからだ。坂本氏は、六ヶ所村の使用済燃料再処理施設による放射能汚染の危険性を訴えている。私はその発言について全てを鵜呑みにしていた。 例を挙げれば「六ヶ所村の使用済燃料再処理施設では1日で通常の原子力発電の1年分の放射能が発生する」という発言を確実な真実だと思っており、当然私は原子力発電の環境への影響に疑問を感じて反対だったのである。 しかし講談社の出版物『ロッカショ』に対するEEE会議の抗議文を読んで、六ヶ所村再処理工場から放出される放射能によって住民が受ける放射線量は0.022ミリシーベルト以下、つまり自然放射線の100分の1以下であるということを知った。私は原子力発電にもはや反対できなくなった。 私はふと思った。「私自身が体験した原子力発電に対する誤解と似たものを多くの人が今も気づかぬままに信じ込んでいるのではないか。その誤解によって多くの国民が原子力発電に異常な危機感を持っているのではないか」ということを。特に私たち日本は唯一の被爆国であるので「原子力」「放射能」といった言葉には過剰なマイナスイメージを抱いていると言っていいだろう。 そういう私たち日本国民が原子力発電についての否定的な、もしくは情緒的な提言を聞けば他のどの国よりも、疑いなくその否定的提言に賛同する人々は多い。現在の情報化社会において、私たちがメディアから受け取る情報がくい違い、矛盾していたりして国民が原子力発電の真実に惑わされることも予想される。 私はその人々が、メディアの送り手の偏った意図に左右されないためにも真実の情報を得る必要があると考える。例えば原子力発電の必要性を訴え、誤解を解くコマーシャルなどでメディアを利用し、国民が誤った情報に利用されない取り組みも必要だと思う。 さらに原子力発電を国民に認めてもらうには、もちろん原子力発電所の事故・異常事態には、偽りのない真実の情報を提供し、改善策を国民に分かりやすく提示し理解してもらうことが必須であると思う。 私が原子力発電に賛成するようになった決定的理由が2つある。 1つ目は、地球環境問題を悪化させている先進国の1つに日本が挙げられるからである。IEAによると、日本のCO2排出量は12億トンで減少傾向にあるとはいっても世界第5位で、決して小さい数字ではない。世界は今や、人類がかつて経験したことのない温暖化に見まわれている。 もはや環境問題は、私たちの子どもや孫が抱える問題ではなく、私たちの明日に関わるダイナマイトである。その導火線があとどれくらいの長さなのか予測できない、いや、もうあとほんの少ししか残っていないかもしれないという事実を見つめた時、私たち先進国が必要とする多量なエネルギーの供給量に比例してCO2を増加させていくわけにはいかないのだ。 その点、原子力発電は発電の過程でCO2が排出されないので環境に優しい発電方法だといえる。さらにCO2だけでなく、酸性雨や光化学スモッグなどの大気汚染の原因とされる窒素酸化物や硫黄酸化物も排出しないのである。 もちろん自然エネルギーや、リサイクル・エネルギーなどの新エネルギーも同時に開発されていくべきだろうと思う。しかし日本のエネルギー自給率は原子力を除くと現在わずか4パーセント(主要先進国中最下位)に留まっており、その事実を考慮すると、約50グラムのウランで約石油10万リットルを燃やしたのに匹敵する莫大なエネルギーをCO2、窒素酸化物や硫黄酸化物を発生させることなく生み出す原子力発電は最も重点を置いて推進されていくべきである。 2つ目は、ウランの供給源が政情の落ち着いた国(世界国勢図会によると「ウランの埋蔵量」1位はオーストラリア、2位はカザフスタン、3位はアメリカである)に多いため、安定していて確実な供給が期待できるという点である。 近い将来、原油生産量がピークになることは、IEAやDOEの統計を見ても明らかである。石油、ガスのピーク後は、ますますの化石燃料高騰が予想される。 今や安定した供給が期待できない石油・ガスに依存し続けることは、天然資源の乏しい日本にとって、戦争などが起こる度に石油の値上がりで社会経済の混乱を招くことになる。化石燃料への依存は資源枯渇が生じた時にも、国家の崩壊を招きかねない危険を秘めているのである。 他方では、原子力発電は安定したウランの輸入が可能なので、長期的に一定したエネルギーの供給を見込め、大変有効である発電手段であると言える。 その他にも原子力発電には、発電が低コストで行なえること、技術力の国際的アピールができること、また原子力発電所建設によって生じる雇用の拡大などといったさまざまなメリットが存在する。 確かに一方で、現時点では核燃料サイクル後の高レベル放射性廃棄物の処理方法の問題や、阪神大震災級の地震に原子力発電所が耐えうるのかという疑問も伴っている。その問題の解決を急ぐと同時に私たちが考えなければいけないことは、どんな資源・方法での発電においても、デメリットが1つもないということは有り得ないということだ。 その点を理解したうえで総合的に判断すると、地球環境に黄色信号が灯る現時点では原子力発電なしに未来は見えない。よって私は原子力発電を慎重に、かつ強く推進したいと考える。 |
お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで |