原子力の日特集【コアリーダーに聞く】(研究機関) 新成長戦略「原子力」と日本の覚悟 −−「政治主導・オールジャパン」で「戦国時代」へ 21世紀リーダー国の条件 日本原子力研究開発機構 理事長 鈴木篤之氏 「世界中で利用可能な原子力」主導 「JAEAオリジナル」で国際競争・協力

日本原子力研究開発機構(JAEA)は平成17年10月に旧原子力二法人が統合して新発足してから5年を経過、また5月にはナトリウム漏れ事故で操業停止していた「もんじゅ」が14年5か月ぶりに再稼働、さらに今年4月から第2期中期5か年計画がスタートした。核燃料サイクル新時代を目前に、この歴史的節目を迎えたJAEAの第3代理事長に前原子力安全委員会委員長の鈴木篤之氏が公募で選ばれ8月17日に就任して間もない。

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─鈴木さんの視点で「原子力の今」と理事長応募の思いを聞きたい。

鈴木 長年にわたり原子力に関係してきたが、現段階で一番大きな課題は地球温暖化防止・CO排出削減問題に象徴されるように、この有限な地球上に世界中の人々がお互い共存共栄を図りながら平穏・平和に暮らしていけるのだろうかにある。これはよく「持続的発展」とかいろいろな言われ方をされるが、要は有限な地球の上に暮らす人口が年々一方的に増えていく将来を展望すると、それに必要なエネルギー確保は大丈夫なのか。産油国でさえ化石資源の枯渇を見越して対応策に真剣に取り組み始める状況を目の当たりにしたときに、改めて前から言われてきた「原子力の潜在性 はどうなのかを、もう一度多くの国が無意識のうちに考え直しているのではないか、というのが私の「原子力の今」についての理解の仕方である。

このように世界の国々は今、それぞれ自国で「必要ならば原子力をエネルギーとして利用できるようになるのだろうか」との思いを強く抱いている中で、日本の原子力はいろいろな意味で参考になっていると思うし、これから日本がどう展開していくかに強い関心・期待を持ち、競争相手国では脅威も感じているような気がする。

たとえば、UAEは原子力発電新規導入計画の具体化に合わせ海外の協力が不可欠なため、私がJAEA理事長就任前に原子力発電所建設企業体の安全に関する諮問委員5人のうちの1人に招聘された(JAEA理事長就任確定で退任)ように、新規導入発展途上国が自国で原子力を使いこなせるようになるにはさまざまな工夫・努力が必要となり、そこで日本が果たす役割は少なくない。つまり、核兵器とは全く無縁の国、日本が原子力平和利用に徹して「核兵器保有国並み以上の技術力、産業としてのインフラを持てる」ことを実証できてこそ初めて、本当に世界で利用してもらえる原子力になる。

私はJAEA理事長職に応募するに当たりいろいろ考えたが、日本はこれまで原子力平和利用のモデル国と同時に、歴史的にはさまざまな紆余曲折、逆風を乗り越えながら原子力発電所の新規建設も途切れることなく地道、着実に継続してきた実績をしっかり踏まえ、やはりここでもう一度、「世界中で原子力がエネルギー源の1つとして利用してもらえるようにするためには、原子力先進国・日本として最大限の努力をするべきではないか」との思いが強い。その意味で、わが国唯一の総合的原子力研究開発機関であるJAEAの果たすべき役割は大きく、「世界中で利用可能な原子力」となるCOE機能を果たしたい。

─その際、原子力新時代へ向けた「R&Dの競争と協調」のあり方・本質を聞きたい。米国が「GNEP計画」にこだわるのは自ら国際的イニシアチブを執ることへのこだわりがあると聞くし、FBR開発については中国なども実証段階に入ったといわれるが、日本の優位はどの程度のものか。

鈴木 競争があるから協力とか協調があり、競争のない協力というのはたぶん「見せかけ」であることが多い。競争によって初めて切磋琢磨し、技術が磨かれていく。その意味では、米国がGNEPでイニシアチブ志向が強いことはむしろ当然だ。したがって、私があえてJAEAの皆さんに「オリジナル技術・製品を生み出せ」と言っているのは、まさに競争に勝つためだ。それにはいろいろな技術が相手国から見て羨望の的になるようにしないとダメだ。現実には、軽水炉ビジネスでも日本は国際展開力が弱い印象を持つ向きもあろうが、その裏には複雑・不透明な政治的要因が絡む場合が多い。しかし、日本の原子炉メーカーの技術力はまさに世界に冠たるもので、十分国際競争力がある。

また日本の優位性については、軽水炉で見れば米国の技術から始まり、独、仏を中心とした欧州へ、その後、日本、韓国、さらに今、中国、ロシア等に広がってきた中で、結果的に総体としての技術力は日本が一番高いと思う。よく「どこの技術が他国より何年先を行っている」と言われるが、単に技術だけでなく産業化していくプロセスまで含めるとあまり意味がない。技術を総体として考えるときにはビジネスなので、競争力の有無が決め手になる。したがって、FBRについては、中国やインド、ロシアも大いにがんばってほしいと思っているが、やはり「一番安全で信頼でき、将来実用化の可能性が高いのは日本」と言われるようにしていくことが大事だ。

─原子力関連の人材育成・確保の展望は。

鈴木 原子力発電は施設・運転の安全確保と同時に核不拡散問題があり、原子力平和利用国家として日本が占めている国際的ユニークさはそこにある。これは、実は人材育成・確保にも大いに関係しており、軍事部門を持つ核保有国はそこに人材が投入されているので、偏った形かもしれないが国全体としては原子力関連の人材は育っている。それだけに、平和利用に徹する日本が今後、FBRまで含めた人材をどこまで育成・確保していけるかに世界中が注視している。

その意味でも、日本国内で核関連の研究開発施設を保有しているのはJAEAだけなので、大学、研究機関、産業界等と有機的に連携、共同利用を進め人材育成に貢献する責務がある。

─解のないテーマ「安全と安心」についての見解は。

鈴木 「安全」については技術的に議論できるが、「安心」は感性の世界であり本来、科学技術が立ち入る領域を超えているとか「別次元の話」という意見があることはよく承知している。しかし、原子力はもともと軍事技術を起源にしているだけに一般社会との関わりあいが特殊という事情があった。一般的科学技術、たとえば生命科学では、科学的合理性の有無だけが社会的価値を決めているとは限らない。

もちろん、合理性のない技術は本来成立しないが、単に合理性だけでなく、その技術が社会的価値として認められるためには、われわれ原子力を預かる科学技術者は、もっと徹底して社会的にもまれる必要があるというのが私の立場であり、考え方だ。

したがって、たとえマスコミがどんなに厳しいことを言おうと、私は受けて立つ。そうすることでわれわれ自身が磨かれていくし、また結果として社会的価値も高まるはずだ。

〈FBR開発「石にかじりついても」の信念〉

─鈴木理事長の信念に立つと、これまで以上に高速増殖炉(FBR)まで含めた核燃料サイクルの重要性が増すと思う。だが、原子力政策大綱の見直し議論を控え、当面する重要度の高い課題を優先し、FBRは再考あるいは一呼吸おいて取り組むべきではないかとの意見も根強いようだが、どうか。

鈴木 当然ながら、当面対応が必要な重要課題は数多くある。たとえば、地震等の災害で原子力発電所が運転停止する一方、予測外の猛暑で電力需要が急増すれば、それに対応する軽水炉原発は何としても安全に動かないと国民生活にも直接大きな支障が出るし、また軽水炉発電に伴って発生する高レベル廃棄物処分問題や核燃料再処理工場早期操業など、現実に抱えている課題解決を優先すべき事情はよく分かる。

しかし同時に、原子力の研究開発(R&D)は「原子力をエネルギー源として世界中で普遍的に利用していけるものなのか」を問われているだけに、当面の課題対応だけでは世界の人々をとても説得できず、長期的に見て「これは確かに信頼できる」と実感・期待されるようなものにしていくことが肝心だ。

その意味で、ナトリウム漏れ事故以来14年間にわたる操業停止の苦難を乗り越え、ようやく今年5月に再稼働した高速増殖原型炉「もんじゅ」を中心とする日本のFBR開発計画は「石にかじりついても成し遂げる」という信念、覇気をわれわれは持ち続ける必要がある。

先日、JAEAの国際諮問委員会委員として来日したフランスの友人も「日仏が協力して何としてもFBRを開発しよう」と改めて熱っぽく語ってくれたが、米国にも同じ気持ちを持つ研究者は多い。FBR開発には原子力三大先進国である日仏米ができる限り国際的協力関係を拡大していく必要があり、この点は日本政府もよく理解し最大限支援しようとしているので、われわれもそれに応えていかねばならない。

ただ、国際協力や国の支援が必要なことは誰もが認めるが、私はそこで一番大事なことは「ではJAEAは何をするのか」を示すことにあると思う。

まず「もんじゅ」を確実に進めることは当然だが、さらに独自のコンセプトによる革新的な原子炉の開発、あるいはそれに必要な機器設備の設計等についてJAEAのアイデアやプログラムから初めて生まれるような「JAEAオリジナル」を世に出して行きたい。ここが、われわれ専門家(技術者)集団として常に念頭に置かなければならない要点であり、理事長就任後にこうした考えをJAEA職員の皆さんに伝え、協力を依頼した。

そのうえで、FBRサイクル実証炉への円滑な移行を協議する「FBRサイクル開発五者協議会(文科省、経産省、電気事業者、プラントメーカー、JAEAで構成)」という産官学一体となった枠組みがすでに整っているだけに、原型炉「もんじゅ」から実証炉、さらには産業化につなげていくプロセスが重要になると思う。むしろ五者協議会を中心に日仏米がお互い必要な競争はしながら知恵を集約、国際的に「さすが」と思われるような成果を挙げていくことが私の使命だと考えている。(8面まで掲載のコアリーダー4人のインタビューは、中 英昌・編集顧問


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