【原子力発電 人材育成の息吹】(6)−国内編− 原子力教育ルネサンス(4) 日本原子力研究開発機構 人材育成センターの取り組み 国内外12万人の研修実績 多彩な施設で「現場を体験」

日本原子力研究開発機構における人材育成活動の強みは、言うまでもなく、研究炉、放射性物質取扱施設、核燃料サイクル施設など、多彩な施設を活用した実習・演習、そして、豊富な実務経験を持つ技術者や研究開発の第一線の研究者からなる、優れた講師陣の指導を通じ、「実際の現場を体験できる」ことにある。

機構での人材育成の取組は現在、東海村の原子力人材育成センターを中心に行なわれているが、前身となる旧日本原子力研究所・ラジオアイソトープ研修所で1958年に、研修課程が開設されてから、同センターは今日までに、国内外合わせ12万人を超える人材を輩出しており、産官学技術者の総合的人材育成に厚く貢献してきた。「50年以上にわたって取り組んできた中で、ほぼすべての専門分野を網羅する講師陣をそろえ、教材など、ノウハウが蓄積されてきた」と、杉本純・人材育成センター長は話す。10年度からは、「原子力研修センター」の名称から、現在の「原子力人材育成センター」に改名・改組、機構内の職員技術研修は人事部に移管して国内外ニーズを集約することで学生実習の受け入れ口としても、機能するようになった。

国内研修としては、原子力エネルギー、ラジオアイソトープ・放射線に関する技術者の養成、国家試験対策のための研修、規制行政ニーズに対応した研修などを実施しており、入門的なコースから、原子炉施設運転管理や放射線管理監督のための専門的コース、法定資格取得コース、特定分野の知識・技術を短期に習得するコースなど、各界からのニーズに応えるべく、多彩なカリキュラムが用意されている。杉本センター長によると、近年開設されたコースでは、J―PARCを活用した「中性子利用実験基礎講座」や、09年度に開始した地元自治体を対象とした「リスク・コミュニケーション講座」が好評を博しているという。また、国家試験受験対策コースでは、特に電力会社の熱心な受講姿勢が顕著で、原子炉主任技術者試験合格者に占める人材育成センターの研修受講生の割合は近年、9割台にも上っているそうだ。

大学との協力活動ではまず、東京大学大学院原子力専攻・原子力国際専攻と、講師の派遣、施設の活用で連携し、原子力専攻では、講義の6割、実習・実験の9割を原子力機構が担当しているという。さらに、「連携大学院制度」に基づいて、全国18大学院と、講師派遣や学生受け入れを行っているほか、「大学連携ネットワーク」では、機構と東京工業大学、福井大学、金沢大学、茨城大学、岡山大学、大阪大学とを結ぶ多拠点間双方向遠隔教育システムを通じ、共通カリキュラムによる講義も実施している。これら取組について、杉本センター長は、「競争的環境、人的交流も育まれる」として、複数の大学が参画する相乗効果を指摘する。また、文部科学省と経済産業省が07年度より開始した「原子力人材育成プログラム」では、採択されたプログラムのおよそ半数に対し、講師派遣による出張講義、実習、施設見学で、原子力機構が協力しているそうだ。

さて、原子力機構内の技術系職員の人材育成は、この4月より、そのミッションは人事部へ移管し、対外的な研修組織から分離した。しかしながら、現場での若手への技術伝承は不可欠のところ、今や「OJTに通ずる人材も少なくなってきた」と杉本センター長は懸念する。機構では08年より、協議会を設け、今後の人材育成施策について検討を開始しているという。原子力界全体はもとより、高速増殖炉サイクル、地層処分、核融合など、機構のプロジェクト進展に応じて、より優秀な要員確保が求められる一方で、平均年齢の高齢化、予算・人件費の漸減対策といった状況のもと、機構内での専門能力を備えた人材確保も喫緊の課題となっているようだ。  (石川公一記者)


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで