【原子力発電 人材育成の息吹】(8)−国内編− 原子力教育ルネサンス(6)東京都市大学・早稲田大学 共同大学院で相乗効果を 実験・実習、現場体験を重視 「未来エネフォーラム」で産業界連携減少傾向が続いた大学の原子力関係学科は、近年になって、原子力の重要性の再認識を受け、上向きの兆しが見られてきた。そのような状況下、今年4月、東京都市大学と早稲田大学の連携による共同大学院・原子力専攻が設立された。 昨年4月に旧・武蔵工業大学から衣替えした東京都市大学では、その前年の08年度に原子力安全工学科を新設しているが、同学は、かつての研究炉による長年の実践的教育実績も有している。一方、早稲田大学は、原子力工学の基礎基盤となる工学系、とりわけ加速器理工学に強いだけでなく、原子力関連企業で現在も指導的立場として活躍する出身者も多く、産業界との連携に長けている。これら双方の強みを活かすべく、両学は09年4月、教育・連携活動の交流と連携の推進目的として、「大学間交流に関する包括協定書」を締結、共同原子力専攻の設立に備えることとなった。 さて、このほど発足した共同原子力専攻は、早大と都市大とが連携した教育課程により、原子力エネルギー学、加速理工学、放射線理工学を中心とした様々な分野の教育、研究を行なうほか、技術面のみならず、安全面、倫理面、リスク管理の指導にも力を入れ、技術的にも人間的にも高い能力を有する人材育成を目指していく。ただ、「共同」とはいっても、本専攻の学生は、両学いずれかの入学選考を経て、各々の大学に所属するわけで、修了要件として、相手方大学の一定単位以上の科目取得が求められる。初年度は、修士課程として、早大12名、都市大13名が門戸をくぐった。来年度入学生も募集を行なっている。本専攻で、原子炉物理学、原子炉プラント工学などの指導に当たる早大の岡芳明主任教授に、その意義について聞くと、「足して二で割るのではなく、それぞれの特徴を活かすこと」と、相乗効果の発揮を期待する。 都市大は世田谷区、早大は新宿区、両学は各々、東京の別の地域に教育・研究活動の拠点を置くが、今回の共同原子力専攻の開講に合わせ、都市大は、交通至便で、両キャンパス間のほぼ中間地点となる渋谷駅から徒歩五分のビル内に、「渋谷サテライトクラス」(=写真下)を開設した。本クラスは、ワイドスクリーンを備えた教室や、リフレッシュコーナーを配置するなど、学生への配慮が施されているほか、両学間の連絡協議会などにも利用される。 座学だけではない。実学重視の観点から、都市大と早大は今年1月、日本原子力研究開発機構と連携協力協定を締結(=写真上)、同機構の原子炉や核燃料施設を用いた実験・実習など、学生たちに現場体験の機会を与えるよう努めている。本専攻では今夏、原子力機構で原子炉運転実習を実施した。 さらに、両学の協力は、産学官の連携を通じた啓蒙活動も積極的で、共同原子力専攻開講に先立つ09年度より、「未来エネルギーフォーラム」を設立、エネルギー産業の活性化、人材育成強化を目指し、様々な活動を行っている。その一環として、「未来エネルギーフォーラム」では、これまで3回にわたってシンポジウムを開催、最近では9月に、加速器・放射線利用をテーマに取り上げ、メーカー各社より、技術、応用展開に関する講演を行った。次回シンポジウムは、12月4日、原子力の安全性と経済性をテーマに、渋谷のエクセルホテル東急で開催される予定だ。 なお、新学科が設置された都市大と異なり、早大には原子力関連の学部はない。早大では、理工系学生を広く対象とし、産業界から講師を招いての講演会や施設見学会も実施するなど、原子力に関する知識を深めるよう努めている。 「決して甘い点を付けるつもりはない」と、岡教授より示された共同原子力専攻に関する資料を見る記者に、同氏は「どうもわれわれのカリキュラムについて、あまり理解してもらえてないのでは」とも。今、熟練技術者が大量に現役を退き、少子化とも相まって、次世代の原子力人材の維持が喫緊の課題となっている。このような状況下、政府、研究機関、事業者等において、様々な取組が進められつつある。 折りしもこの19日、産学官の相互協力による「原子力人材育成ネットワーク」の設立会合が開かれるなど、人材問題は新たなフェーズに入った。同ネットワークでは、情報共有を図るべく、既にホームページも立ち上げた。しかしながら問題は、会議の場でも、インターネット上でもなく、教育なり、実務なり、それぞれの現場で起きているのだ。そして人材育成の主役は、学生たちであり、次世代を担う若者たちであることを再認識すべきではないか。記者の所感を記して、本シリーズ国内編を締めくくりたい。 (石川公一記者) |
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