【論人】竹内哲夫・原子力学会シニアネットワーク前会長、元東京電力副社長 「海ガメの突起物」

カメは自力で誕生、その秘密は、卵中の胎児カメが1回ポッキリ使う鼻先についた小さく固い突起物という。抱卵でも、胎生でもなく親肌を知らず、海の匂いをかぎ分け這い降りる。カメの姿風情と長寿は、ヒトへの愛着と願望を誘う。

高等動物の長でカメ並みの長寿国になったと自讃するヒトはどうだろう?訴訟を嫌い産婦人科医は不足、大卒未就職者の増大、婚活しても結婚忌避、年金制度の崩壊、無縁仏放置の親の年金までスネを噛まれては成仏しない(絶句)。

ヒトは高い技術を手中に収めた。最近はGPS(グローバル・ポジショニング・システム)、宇宙交信技術すら駆使し、絶滅保護の動物の調査に発信機を利用しているのはヒト様の余裕だが、一方では幼稚園児や徘徊老人の失踪、犯罪・事件の検知・立証用にも役立つ。ヒト文明の高度進化が人類社会の退化、崩壊防止にも用立てる時代になった。この種の技術が今回のチリの鉱山事故で人命救済にも使われ、拍手喝さいを受けたが、厳しい国際的な資源枯渇で採掘を再開した無理があったとも聞く。これは中国で頻発の炭鉱事故にも通じている。

ではヒトの心はどうか?築きあげた富を大衆に分けるのは昔の徳の美談で、今の贅沢社会で心は寂しい。一旦手に入れた便益、権威に固執し、つい自分よがりになる。この崩壊の図式は、政界政局はじめ、検察庁や日本相撲協会など、昔からの権威と伝統の殿堂にも及んでいる。隠蔽、改ざんという用語は30年程前までは特殊なはしたない言葉だったが、今日は毎日の新聞紙面に出て、子供にも通用する。食品の産地、加工偽装等の初歩的なものから、大阪高検の証拠品改ざん事件のようなIT判じ物まで出揃った。

内部告発で一旦発覚すると、双方はこの正当性と反論、弁明に躍起になり、挙句は大騒動で、客観的第三者や監査導入など、膨大な人力と費用の浪費はとまらぬ。昔、貧困と戦後復興を求め飢餓でさ迷った生一筋の時代には、多少の悪さには皆が目をつぶって寛容で融通性もあったが、今は飽食三昧の時代で、生産よりも清算(人の批判)に目くじらたって熱が入る。

原子力界も真っ先に体験し、「失われた10年」が続き、今や発電稼働率は世界でブービーの成績に落ちた。喫緊の課題として、工学的な解決策すなわち「外国並みに運転中の状態監視で補完し、開放検査(定期検査)を少なくし、一方、再起動への手続きのアイドル時間短縮だ」の結論は出ている。しかし改善が遅い要因は「原子力が不調の方が自分個人に都合のよいステークホルダーが、社会で圧倒的に強く実権支配している日本の社会構造だ」と指摘したい。

話しは変わり、4年前にわが同志で創生した学生対話(原子力学会シニアネットワーク=SNW)活動は、当初は原子力進学、就職に戸惑いがあったが、今は世界のルネッサンス潮流で心配無用になった。

最近は専門外の教育学部、文系とも対話を多角化し、東南アジアの留学生なども混じり元気溌剌(はつらつ)で「学生とシニアの往復書簡」の出版など、意欲的になった。素直な独白は、職50年の元熱血漢といっても老カメは所詮消える。

ただ生あるうちに特異なガラパゴス島と揶揄される日本に現存する妙な殻(固定観念)を破壊するための強力な突起物を若ガメと合作したい。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで