【原子力発電 人材育成の息吹】(9)−国内編− 原子力教育ルネサンス(7) 国立原子力研究大学MEPhI ロシア全土の関係大学を統合 国挙げて原子力人材を育成 中等機関からの一貫教育にも力点ロシアは、約2320万kW(31基)で日本に次ぐ世界第4位の原子力発電規模を誇り、2020年までに原子力発電シェアを16%から25%に拡大する目標を立てている。他方、これまでに旧ソ連圏を含め60基以上の原子炉を建設した経験を有し、近年は新規導入国からの原子炉受注に向け戦略的に仕掛けるなど、さらに存在感を強めている。 ロシアにとり原子力産業を担う人材育成は、今後の世界展開を考える上で極めて重要な課題となっている。 今号では、ロシアの原子力教育の中核を担う「国立原子力研究大学MEPhI」の幹部らの話をもとに、協力連携が進むロシアの原子力人材育成について紹介する。 ロシアでは1990年代初頭、社会体制が変わったことに伴う出生率低下が原子力人材の不足にもつながっている。若者たちの価値観が変化し、原子力や物理学がもはや憧れではなく、原子力関連の大学を好成績で卒業しても、高収入のビジネス分野に進む学生も多いようだ。原子力企業は地方に分散している一方、教育機関は大都市に集中していて、高等教育を受けた若者が地方に戻りたがらないという問題もある。こうした問題解決のため、主要な経済・産業を支えている大学に対し政府が支援を決定したという。 国立原子力研究大学MEPhIは2009年4月、原子力産業や高度技術を要する産業向け人材と科学技術革新の確保を目的に、それぞれ連邦教育庁と国営原子力企業ロスアトムの管轄にある大学や専門学校を統合して発足した組織。ロシア全土で、モスクワ物理工科大、オブニンスク原子力工科大など10の高等教育機関と15の中等教育機関が傘下にある。1500人の教授陣を抱え、合計約3万4000人の学生が在籍。主要コースは高等機関に60、中等機関に45備えられている。ロシアの原子力産業を担う人材を育成する大規模教育組織だ。 国の支援を受ける同大学 は、毎年政府予算から4億ルーブルが支給される一方、毎年目標が設定され、政府から評価を受ける。将来の原子力産業従事者を輩出するという役割から、ロスアトムからも4億ルーブルの支援を受けている。 同大学 では、今年3月、今後の人材育成活動の方針を明確化。ロシア国内の原子力産業におけるあらゆる部門の人材確保を目的とする優先課題が設定された。それらは、原子力エネルギー産業、新世代原子力技術、核融合部門の人材育成、さらには海外市場におけるロシアの原子力技術の普及をねらった国際協力展開と教育サービスの輸出である。ロシアらしく核兵器部門の人材育成も含まれている。 そのような同大学にとり、学生集めは決して簡単でないようだ。原子力施設周辺地域の一般学校で物理・数学の水準を高め、生徒に原子力に関心を持ってもらったり、ロスアトム主催の物理学・数学オリンピックで優秀な生徒を発見するための活動、どこで入学試験を受けても入学後の希望のところで就学することができる制度の創設――など、受験生の関心を引くためのプログラムを実施しているという。 2007年には、「ロシア・イノベーション原子力コンソーシアム」が組織され、原子力関連大学、主要研究所、原子力関連企業の間で、原子力の知識・ノウハウを共有するための交流が進められている。この枠組みでも同大学は他の原子力関連研究機関との連携に力を注いでいる。 さらに、同大学とロスアトムが主導して国際的な同様のコンソーシアムも設立された。カザフスタン、ベラルーシなど旧ソ連4か国の参加のもと、2008年から原子力教育の経験・良好事例を共有する活動が行われている。IAEAや世界原子力大学、欧州原子力教育ネットワーク、欧米・アジアの大学との協力促進も、同大学の今後の重点課題だとしている。 先般、ベトナム初の原子力発電所プロジェクト第1期工事はロシアが受注したが、今年3月には、ロスアトムとベトナム教育省が原子力発電人材育成での協力文書をすでに交わしており、中核機関の同大学が、ロシアベトナム原子力協力の架け橋となる人材育成に重要な役割を果しそうだ。 (木下雅仁記者) |
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