【インタビュー】エンジニアリング統合局長に就任 近藤光昇氏に聞く ITERへ夢と危機感胸に 先端国際プロジェクトへ身投じる

国際熱核融合実験炉(ITER)の実現に向けて、日本の産業界から、設計調整、機器の組立て、運転、安全・環境部門など技術統合部門を担当するITER国際機構(本部・仏カダラッシュ)の「エンジニアリング統合部局」の局長に、東芝の近藤光昇氏(新技術応用システム技術部担当部長)が就任、11月末で同社を退職し、6日に着任した。着任前に東京でインタビューした。(河野 清記者

――なぜ国際プロジェクトのITER機構へ赴任したいと考えたのか。

近藤氏 原産協会でITER・BA対応検討会の主査を務めてきて、ITERから原型炉、商用炉につながるような報告書を取りまとめ、ロードマップを作った。日本全体を取りまとめる核融合エネルギーフォーラムのITER・BA技術推進委員会の委員も産業界委員2名のうちの1人として参画した。

産業界からみると、ITERの与えられた総額予算は十分とは言えず、コスト的にたいへん厳しい。これ以上の予算拡大は許されず、これを放置するとITERプロジェクト全体が頓挫しかねないという危機感を持った。ITERが頓挫すれば、他の研究分野から核融合全体の研究開発をやめろという厳しい意見も出かねないと思っている。従って、ITERを何とか成功させたいという気持ちが赴任への引き金となった。

さらに原型炉から商用炉にもっていくためには、次の原型炉は発電を実証するだけでなく、ライフ・サイクル・コストも含めて他の発電源とコスト競合できなければならない。そのためには、各開発段階でホールド・ポイントを設けて、それを超えられなければ、そこで開発を止める覚悟で臨まなければならない。

――近藤さんと核融合との出会いは。

近藤氏 私は大学では機械系の出身。1980年に東芝に入社し、最初は核融合用のロボット開発を10年やった。核融合装置は放射化されたブランケット・第1壁や不純物除去のダイバータなどを定期的に交換することを前提としていたため、斬新な設計だった。社内のロボット開発は核融合ロボットが最初で、その後の他分野でのロボット開発につながったと自負している。

ITER工学設計が開始されるということで92年から4年間、当時の日本原子力研究所に出向した。その後は核融合開発ビジネスのプロジェクト・マネージメントを、主な業務としてきた。

――ITER完成の自信のほどは。

近藤氏 ITERも日本のJT―60SAも今後、建設段階に入る。いかにコストを安くして装置を作るかが最大の課題だ。そのためには、最低限のプラズマ運転シナリオを目標にすべきで、プラズマ物理研究者の要求度とのせめぎ合いになるだろう。要求が増えることは仕様増を意味し、コストが増えることにつながる。

ITERに参加、投資している7極(日本、EU、米国、ロシア、韓国、中国、インド)の人口を合わせると全地球の人口の50%を超える。軽水炉が高度化し長寿命化している現在でも何故、7極は核融合開発に積極的なのだろうか。究極的に海水から容易に入手可能な重水素とリチウムを燃料にでき、資源の地域偏在から解放される期待が大きいからだ。

――ITER機構での局長ポストでの仕事は。

近藤氏 フランスの安全規制の下に全体設計、建設、運転などと幅広く調整機能を発揮しなければならない。部局員は約100人だが産業界出身者がきわめて少ない。日本人は秘書を含め3名のみ。

フランス規制当局から追加の要求事項がたくさん出てきているが、部局員はその要求をまじめにこなそうとしている。しかし各要求事項が過剰かどうかを精査することが重要で、どうしてもコスト増になるならホスト国であるフランス、EUに負担してもらうことも必要と考えている。世界中から産業界を中心に十数名程度のエンジニアを集め、12月からさっそくタスクフォースを立ち上げて、プロジェクト全体の見直しを行う計画だ。

――今後、ITERプロジェクトでの日本への期待は。

近藤氏 これから国内では原型炉に向けての予算化が議論されてくるはずだ。原型炉へ確実に進めていくにはITERの成功が大前提となる。日本はEUの次に機器製作の貢献度が大きいので、産業界がコスト削減のための合理化設計などの提案をしてくれることを期待している。


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