5年ぶりの原子力大綱改定 近藤委員長に聞く 原子力開発の方向性幅広く議論し決定へ

原子力委員会は昨年11月、5年ぶりに原子力政策の基本となる原子力政策大綱を策定することを決定した。今後約1年かけて行う新大綱策定の意義や時代的背景を近藤駿介委員長に聞いた。(河野清記者

――近藤委員長は昨年1月から原子力委員長就任(任期3年)3期目に入り、以前の原子力長期計画から名前も変えた05年大綱に次いで2回目の大綱策定に臨む。新たな策定の意義をお聞きしたい。

近藤委員長 2000年の行政改革で、原子力行政の推進体制が変わり、原子力委員会は内閣府に属することになった。そして、委員会が原子力の研究、開発及び利用を計画的に推進するために存在し、これに係る政府の施策を企画、審議、決定する責務を有することは変わらなかったが、施策の調整機能については「総合調整」から「調整」となった。

委員長を引き受け、この状況でこの責任を果たすためにどうしたらよいかと考え、これらに係る具体的施策の企画推進を担う行政機関群に対してある程度の期間にわたる骨太、あるいは横断的な施策とその方向性を示す取組みを行うことが大切と思い定め、それを原子力政策大綱として取りまとめる作業を開始した。05年10月に委員会決定した大綱は、同月中に、「政府は、原子力委員会の『原子力政策大綱』を原子力政策に関する基本方針として尊重し、原子力の研究、開発及び利用を推進することとする」との閣議決定を行っていただいた。

この大綱に「政策評価」の取組みを謳ったことで、新しい委員会の使命遂行の型ができたことやこの経緯からして、大綱は制定後5年を経たからといって必ず改定するべきものではない。そこで、政策評価の結果を踏まえて委員の間で意見交換を重ねるとともに、いろいろな方にご相談申し上げた。

――今回の新大綱策定決定に至るまでに、有識者や国民からの意見も聞いたようだが、その感触は。

近藤委員長 有識者の意見は、原子力の現場に近い方ほど基本方針の基軸の変更は必要ない、国際情勢の変化や事業計画の補正などへの対応は政策評価作業を通じて行っていくことでいいと、改定に消極的だった。

他方、約1200人に及んだ国民の意見は、9割がいろいろなことが起きているから改定すべきというものだった。毎年行ってきた政策評価を取りまとめる際のパブコメでは、多くても200件程度の意見をいただけるかどうか。これで、政策評価を行って時宜を得た施策の方向性を示し続けていると言っても、強弁と受け取られると思い知らされた。そこで、改定に乗り出すことを決意した次第。

――今回、新大綱の議論を行う際に留意するべき、5年前との状況変化の大きなところはどんな点と認識しているか。

近藤委員長 第1は、地球温暖化対策に関して京都議定書の約束期間を越えた期間における削減目標に関する議論が進んだこと。この結果、現大綱の30―40%という下限値は規範性を失っている。

他方、そうとすれば、原子力発電の取組みにおいて、そうした社会的役割を果たす観点から、安全の確保及び事業リスク管理の取組みの重要性が増す。現大綱もこの重要性を指摘しているが、柏崎のこともあり、国民の期待に応えることができることを具体的取組みを添えて示すべきだろう。

第2は核燃料サイクルの取組み。5年前は六ヶ所再処理工場がホット試験前であったことから、バックエンド政策を検証する最後の機会だという強い意見があったので、これに応じ、時間をかけて政策の選択肢を議論した。今回は、プルサーマルが開始され、工場の本格操業開始は遅れているが、約400トンの再処理が行われているなどの事態の推移があり、さらに、この工場の操業終了に続く将来の取組みの在り方についての議論を2010年頃から開始するという重い約束がある。高レベル廃棄物処分場開設の取組みに関しては、パブコメでもその遅れに批判が多かった。政策に対する信頼が問われているという危機意識をもって議論しなくてはいけない。

第3は原子力国際通商論議が現実味を帯びてきたこと。こうなると、国内の取組みを世界標準をクリアしたものにすることや独自の重要な取組みについてこれを世界標準とするべく明文化し発信していくことが必須になる。人材育成の取組みやしばしば話題になる安全規制制度の在り方もこの視点から決めていくべきではないか。これを契機に、人類社会の福祉の向上に貢献するという原子力基本法の目的を達成する観点から、これらの取組みの基本的方向性を確認し、国民の理解を得つつ、それを実現していくために誰がどうすべきかを明らかにするのが使命かと考えている。

――原子力委員会の今後の役割は。

近藤委員長 政府・与党において新しい科学技術政策の企画・推進体制の議論があり、そこでは原子力行政の在り方も対象になり得ると思料するが、いまは原子力委員会設置法に示されている役割を関係行政機関の協力を得ながら果たすことに全力を注ぐべきと思っている。(2面に関連記事)


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