【スポット】原産年次大会、4月開催−−「グローバル化新時代」(1)日本エネルギー経済研究所 専務理事 十市 勉氏に聞く 「日本型ビジネス」構築のとき

世界は成長戦略と温暖化対策の両面から、「原子力グローバル化新時代」を迎える中、4月14〜16日に愛媛県松山市で第44回原産年次大会が開かれ内外から1000人以上が参加する。そこで同年次大会の登壇予定者5人にスポットを当て、それぞれの立場から問題意識・見解を聞く。(本シリーズ(1)〜(3)のインタビューは、中 英昌・編集顧問

―「世界の中の日本の原子力」の位置づけは。

十市 中東・北アフリカ地域の民主化のうねりは政治的、歴史的方向は正しいが、新体制が定着するまでには曲折が予想される。そのため、世界の原油供給・価格に一過性でない構造的変化を及ぼすと懸念される。このことは、エネルギー確保と温暖化対策は一体で進めなければならないだけに、原子力発電の重みが改めて世界的に再評価されグローバル化≠フ加速要因となろう。

そうした中、日本はまず新規導入の発展途上国向け原子力プラント・システム輸出のモデルケース≠ニなるベトナム2期計画受注で、具体的にどのような成果を挙げられるのか。また、事業主体となる民間企業がリスクを分担しながらいかに利益を確保できるのか、という新しい2つの課題に今挑戦する段階にあると認識している。

特に、国が巨額のリスクマネーを供給しナショナルプロジェクトとして取り組む方式は、これまでの経験からすると、あまりうまく機能しなかった。その最大の問題は、最終的に主導権・権限を持ってきちんと総責任をとる中核企業を欠いていた点にあったと思う。

―ベトナムの原子力プロジェクトについては、官民で新会社「国際原子力開発」を設立した。

十市 だが、プロジェクト自体まだFS段階なので、どこがプラント建設の主契約者になるのかをはじめ先方の具体的ニーズの詳細や、それに誰がどう対応するのか等を詰めつつある段階で、答えはまだ出ていない。しかも、日本国内ではこれまで、電力会社が総合プロデューサー役でプラントメーカーやゼネコンを取り仕切り世界に冠たる実績を築きノウハウも蓄積してきた。しかし、国内だけの閉じた、国際競争から隔離された市場に根ざしたシステムなだけに、原子力産業の裾野を支えるサプライチェーン(企業群)を含め、これまでの「日本的モデル」が海外でも通用し、成功するか否かは不透明だ。

原子力の国際市場で競合する仏、韓、ロシアはいずれも1国・1社体制で、いわば国策会社が主契約者なのに対し、日本は電力会社も公益事業とはいえ民間会社で、プラントメーカーも3社が競合している。従って、まず民間会社で負えるリスクと負えないリスクをしっかり仕分けし、国の支援のあり方・役割分担を明確にし、国際的に対抗できるような新しい「日本型ビジネスモデル」を構築することが最重要課題だ。

―原子力グローバル化時代の競争と協調≠フ構図はどうか。

十市 原子力は複雑多岐にわたる総合工学で、ひとつの国や企業ですべてに対応することは不可能なだけに、今後の原子力グローバル化時代では「国際連携・協力」がキーワードとなる。特に、経済発展が著しく、原子力発電の急拡大が進む中国の動向が焦点になる。もし、ひとたび大事故を起せば世界、とりわけ日韓の原子力利用への影響が避けられない運命共同体なだけに、安全対策や事故対応、人材教育を含め、日中韓の3か国協力が重要性を増している。

一方、中国自身も原子炉を国産化するまで技術力が向上してきているため、知的財産権を守ることが自国にプラスになるとの認識も高まり競争と協力の図式≠熾マ化しつつある。これから日本として、中国とどのような協力関係を築いていくのか、本気になって考えなければならないときを迎えている。


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