【書評】「激化する国際原子力商戦――その市場と競争力の分析」村上 朋子 著

昨今、国際原子力市場の動きが勢いを増している。本書は、各国が着々と戦略を練りダイナミックに国際展開を進めている構図を俯瞰しながら、日本が置かれている状況を浮かび上がらせる。

まず、エネルギー保障問題が顕在化し、新興国が原子力導入へ向けて動き始めた2000年代以降の原子力勢力図を概説した上で、2005年頃以降の世界主要国の原子力政策を読みとき、特に2008年頃からの新興国の国際入札・落札の動向について、新興国側の事情を中心として分析する。

そして、産業界の動きに着目し、1980年代から90年代にかけての新設低迷期から2006年以降の激動まで原子力産業の変遷を振り返りながら、企業の行動原理と各国のエネルギー政策の関係を見つめる。また、サプライヤーや核燃料サイクル技術の各プレーヤーなど、それぞれの視点から原子力産業を評価する。さらに現在開発中の原子炉概念を紹介し、プラントメーカー各社の戦略と資源配分状況、国際会議での検討状況も整理している。

最後に、日本の現状に即した国際展開戦略を分析し、日本の産業競争力向上に原子力産業が果たすべき役割について提言を試みている。

著者は日本エネルギー経済研究所研究員で、実のところ最も好きな発電技術は水力と風力だという。それでも原子力を「優れた技術で基幹電源の1つとして長期利用に値するものと確信する」という客観的で緻密な分析力が光る。

本体価格1800円+税。266ページ、エネルギーフォーラム発行。(真)


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