福島第一原発事故による各国の反応 脱原子力転換国に影響

福島第一原子力発電所事故は、これまで技術力の確かさを海外展開のセールスポイントとしていた日本での発生ということで、各国の原子力開発は少なからず影響を受けている。過去にTMIとチェルノブイリで炉心溶融事故を経験した米国とロシア(旧ソ連)では比較的冷静なほか、原子力を重要な輸出産業と位置付けるフランスも国内原子炉で安全審査を実施するものの、開発方針に変わりはない。大規模な原子力拡大を計画しているインド、中国でも、安全確保に一層慎重を期す考えだが、今後の原子力政策に大きな変更はないと発表している。

影響が甚大なのは、近年ようやく、脱原子力政策からの転換に道筋が見え始めていたドイツ、スウェーデンなどの国々。元々、国民の中に環境問題への意識が高いこともあり、現時点以上の開発拡大は難しくなった。原子力復活を目指すイタリアでは、1年間の冷却期間を置いて、事態の収束を待つ戦略と見られている。

〈仏IRSNが放射能の見積もり評価を公表〉

フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)は22日、福島第一原発事故発生後から同日までに同発電所から放出された放射能の見積もり評価結果を発表し、「放射能雲は23日か24日に仏国本土に到来する見込み」とする一方、チェルノブイリ事故による推定放出量の約10%程度との評価を明らかにした。

IRSNはあらゆる分野の電離放射線リスク評価と防護措置、安全対策を専門とする政府支援組織で公社的性格を持つ。福島の事故が世界的な注目の的となっていることから、事故発生直後から危機管理機関を立ち上げ、仏国の原子力安全規制当局や仏気象庁などのほか、米原子力規制委員会、独原子炉安全協会、国際原子力機関からも情報収集。同事故の現状把握と放射線リスクの解析、それらによる環境や人体への危険性評価を地球規模の計算シミュレーションで実施したとしている。原子炉の圧力開放に伴い放出される放射能としては、燃料棒の損傷に伴って最も早く放出される希ガス、ヨウ素、セシウム、テルルなどを対象とした。

その結果、希ガス=2×10の18乗ベクレル、ヨウ素=2×10の17乗ベクレル、セシウム=3×10の16乗ベクレル、テルル=9×10の16乗ベクレルで、チェルノブイリ事故の放出量の約10%に相当するとしている。

これらによる放射能雲は北半球気流に乗り、濃度を弱めつつ移動。仏国気象庁と共同で行った拡散シミュレーションによると、この放射能雲は21日中に北米の大部分とシベリア北東部を覆っていたが、北大西洋上空を通過した後、23日か24日に仏国本土に到来するとの結果だった。

この雲に見舞われた地域で予測される空気中のセシウム137の濃度は極めて低く、IRSNが設置している170のモニタリングポストネットワークでは測定が不可能。健康や環境ともに害を与える心配はないとの評価を下している。

ちなみに、チェルノブイリ事故直後に現場近くで観測された放射能量は10万ベクレル/立方メートルを超えたとIRSNは指摘。放射能雲の汚染被害を被ったウクライナやベラルーシの放射能量は100〜1000ベクレル/立方メートル、仏国東部では1〜10ベクレル/立方メートルだったことから、これと比較すれば現時点での危険性が薄いことを強調した。

〈米規制委、福島事故の分析特別班を設置〉

米原子力規制委員会(NRC)は23日、福島原発事故から得られるすべての情報と教訓を検証し、米国内の原子力発電所における安全確保に役立てるため、短期と長期の2本立てで分析調査する特別作業班を設置した。

これは17日にB.オバマ大統領からNRCに対し、国内発電所の包括的な安全審査を行うよう要請があったのを受けたもの。20数基の新設計画浮上で国内の原子力産業が30年ぶりに活気付き始めた矢先の事故でもあり、その事実関係を正確に把握・分析し、今後の開発の方向性を見定める考えだ。

同作業班はNRCの現職上級マネージャーや引退した専門家などで構成され、短期的な分析結果を30日、60日、および90日後に更新して報告。一方、長期的な審査は、変更が必要と見なされた規制事項をNRCに提示するために行う。90日以内に評価作業を開始し、6か月以内に行動勧告を含めた報告書を提出することになる。

オバマ大統領は事故直後、福島原発の半径約80km以内の米国民に避難を勧告したが、原子力は再生可能エネルギーと並び米国の将来のエネルギーを担う重要な一部分だと指摘。日本の事故から教訓を学び、米国民の安全を確保するという責任に基づいて、国内原子炉の包括的安全審査を命じたと説明している。


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