【原子力ワンポイント】日本の放射線・放射能基準−−福島第一原発事故〈番外編〉緊急作業被曝量を250ミリSvと設定

今年1月から始めたこの放射線解説シリーズですが、東日本巨大地震で福島第一原子力発電所が甚大な被害を受け、炉心損傷という未曾有の原子力事故が起きました。事故拡大を防止するため働く作業者の被曝のほか、大気・海洋に放射能が放出され、東北や関東地方などの野菜や牛乳、魚、飲料水などにも含まれるようになりました。今回はこのシリーズの番外編として、それらの我が国の基準値などについて解説します。男子高校生の「ゲン君」の質問に、ものしり博士の「カワさん」がどこまで答えられるでしょうか。

ゲン君 被災当初、電気もつかない現場で、困難な復旧作業を行っていた作業員の人たちの被曝は、大丈夫かな。

カワさん 経済産業省や厚労省は、今回の大震災を受けて、東京電力の原子力発電所の事故対応に当たるため、非常時の作業員の被曝線量限度を、従来の計100ミリSvから同250ミリSvに変更しました。

経産省は3月15日の告示40号「平成23年東北地方太平洋沖地震の特にやむを得ない緊急の場合に係る実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示」として、原子力災害特別措置法に基づく原子力緊急事態宣言が出された日から、同解除宣言が出された日まで、線量限度は、実効線量について250ミリSvとしました。

国際放射線防護委員会(ICRP)が定めた国際基準では、緊急作業での上限を一時的に白血球の減少がみられる計500ミリSvとしています。なお、通常の放射線業務従事者の線量限度は、5年間で計100ミリSv(年平均では20ミリSv)または1年間で50ミリSvのいずれかの制限が課せられています。これらの数値をオーバーしそうになったら、働きたくても現場では働けなくなります。

ゲン君 福島第一の現場で被曝し、入院した人がいて心配されたけど。

カワさん 福島第一3号機のタービン建屋地下で3月24日、電気ケーブルの敷設作業を行っていた協力会社の作業員3名が、個人線量計で約170ミリSvの被曝をしました。くるぶしまでの靴を履いていた作業員2名は、水たまりでの作業で靴の中に放射能に汚染された水が入り、両足に放射能の皮膚汚染が確認されました。水表面の線量率は約400ミリSv/時でした。

除染を行ったものの、常駐医師がやけどのような症状がでる「ベータ線熱傷」の可能性があると判断し、福島県立医科大学付属病院へ搬送しました。その後、千葉県にある専門的な被曝治療ができる放射線医学総合研究所に3名とも搬送し治療を受けましたが、症状もなく28日に退院しました。

ゲン君 飲料水や食べ物の基準値は?。

カワさん 厚労省は17日、原子力安全委員会が定めた防災指針の指標値を、食品衛生法に基づく暫定的な規制値とし、これを上回る食品について、同法の規制制限食品として、食用に供されないような対応を各自治体に通知しました。

暫定規制値では、放射性ヨウ素は飲料水と牛乳・乳製品は300ベクレル/kg、根菜・芋類を除く野菜類と魚介類は2000ベクレル/kg。牛乳・乳製品に関して、100ベクレル/kgを超えるものは、乳児用調製粉乳及び直接飲用に供する乳に使用しないよう指導することとしています。

放射性セシウムは飲料水と牛乳・乳製品は200ベクレル/kg、野菜類、穀類、肉・卵・魚・その他が500ベクレル/kgとなっています。

これらの規制値は、1日の平均的な摂取量を1年間飲食し続けた場合でも、一般公衆の線量限度の1ミリSvの被曝にとどまるという基準で定められています。

ゲン君 放射能は半減期があると習ったよ。

カワさん 放射能には物理的にだんだん弱くなる性質があり、その強さが半分になる時間を半減期と呼びます。一方で、生物には食物連鎖でしだいに体内で放射能が蓄積される性質と、生物学的半減期といって、取り込んだ放射能が排泄などで体外に排出される性質もあります。(原産協会・情報・コミュニケーション部)


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