英政府、電力市場改革で白書 炭素取引下限価格を設定へ

英国エネルギー・気候変動省(DECC)のC.ヒューン大臣は12日、電力市場改革に関する白書を公表した。低炭素で潤沢な電力の供給を将来も安定的に保証していくため、炭素取引下限価格の設定と言った提案を盛り込んでおり、投資家に対して低炭素発電技術への投資を一層魅力的なものとし、十分な発電設備を確保していく考えだ。

今後はこれら一括提案における主要項目を来年5月に始まる議会で法制化し、最初の低炭素プロジェクトが2014年にも恩恵を被れるよう、13年春の議会会期末にまでに法令集に掲載。新システムが施行されるまでに投資に空白が生じないよう、効果的な移行準備を取るとしている。

英国では国内発電設備の4分の1が今後10年以内に閉鎖時期を迎えることから、20の大型発電設備建設と送電グリッドの改修に1100億ポンド以上の投資が必要。長期的には輸送や暖房部門での電力シフトが一層進むため、2050年までに電力需要も倍増していき、これまで通りの業務慣行では立ちゆかなくなる。

こうした認識の下、DECCの白書は同業界への一層の投資を引き付けるとともに顧客の電力料金に対する影響を軽減し、確実な電力供給構造を作り上げる重要施策を提示。この電力供給構造にはガスや新規原子力発電所、再生可能エネルギー、および二酸化炭素の回収・貯留(CCS)が含まれるとしている。

改革の柱としてDECCが提案しているのは次の4項目。すなわち、原子力を含めたすべての低炭素電源建設への投資を強力に促すため、(1)炭素排出量取引の公正な「最低価格」を設定し、投資家が躊躇する不確実要素を低減する(2)差金決済取引型の長期契約として「固定価格買い取り制度」を新たに導入する。これら(1)(2)では、電力卸売価格や欧州連合の排出量取引制度における炭素価格が英政府の下限価格を下回った場合、その差額を補完することになるため、電気料金に転嫁される価格の大幅な変動を防げる。

また、(3)「温室効果ガス排出達成基準(EPS)」を1kWh当たりCO、450グラムと設定し、CCSの無い石炭火力発電所の新設に抑制をかける(4)将来の電力供給能力を十分確保するため、キャパシティ・メカニズムを導入する――である。

政府の見積によると、現在の電力市場のままでは、2030年の電力料金は現在の一家庭当たり年平均額である約500ポンドから約200ポンド上昇。市場改革提案の実行により、この上昇額は40ポンド〜160ポンドに抑えられるという。また、この改革案は英国ガス電力規制機関が市場競争状況を改善するために策定した将来の電力ネットワーク戦略からも支持されており、電力市場の99%をたった6社のエネルギー企業が占有するという現在の状況を打開できるとしている。

英国では1990年に国営電力会社が3つの発電会社と地域別の配電会社および送電管理会社に分割民営化され、電力を強制的に卸売市場にプール・配電するシステムとなったが、2000年代には個別の相対取引システムへ移行。2010年末になるとDECCが今回の一連の改革案を公表し、今年3月まで公開諮問にかけていた。

英国の現政権は原発の新設計画に政府の補助金を出すことはないと明言しているが、計画を進めているEDFエナジー社などは今回の改革案が原子力産業界に有利に働くとして歓迎。しかし、一方で同案は政府による炭素市場価格への介入、さらなる規制につながると見る向きもあり、今後の展開が注目されている。


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