今こそ高レベル問題を議論 次世代にも選択肢残して 学生勉強会 原産協会が開催協力3月の福島原子力発電所の事故により、これまでの原子力ルネッサンスは一転し、再び原子力に逆風が吹き始めた──。このような書き出しで始まる日本原子力学会・学生連絡会の勉強会の案内のテーマは、「放射性廃棄物の地層処分」だ。この時期になぜ?との疑問も湧くが、原子力には「情勢に関わらず解決しなければならない問題が存在する」との認識から、あえて同テーマを選んだ。一向にその解決の糸口が見えないテーマについて、学生のうちから問題把握と、自分の頭で考え、情報を共有する機会を設けることが重要との考えからだ。 日本原子力産業協会が協力し、9月下旬に技術と社会的側面から2回に分けて情報提供し、学生達と意見交換を行った。東京近辺の大学を中心に各回20名を超える大学院生、学生が参加した。 原産協会の高レベル放射性廃棄物の担当責任者から説明を受けたあと、学生達が小グループに分かれて議論し、問題点の所在や疑問点などについて明らかにし、各グループ毎に発表した。 学生達から第1日目に出た意見は次の通り。 ▽天然バリアや人工バリアの性能評価など、不確実性が大きいというのが印象。「処分」ではなく「保管」の方が受け入れやすい。放射性廃棄物は脱原発でも貯まっていく。最終処分のあり方を直すべきだ。 ▽地層処分が理解されない点は、(1)技術データの提供が推進機関であること→クロスチェックの必要性(2)長期的不安・疑問がぬぐえない→取り出し可能性の確保が求められる。考える対象の期間を短くして、そこまでの確実性を明確にする(300年〜1000年)。その間の責任を明確化すべき。 ▽立地選定で、原子力発電所立地推進の上関町長選挙(9月)でも、リスクとベネフィットの考え方は(福島事故後も)崩れていない。立地交付金、雇用、物の購買など処分場立地でも同じだろう。高知県の東洋町では町長と町民とのコミュニケーションが不十分だったのではないか。公式の公募以前の検討の仕組みが必要だ。 ▽どこまでが安全と評価できるのか。安全と安全でないところの境目はあるのか。シミュレーションと同時に技術開発も必要。新しい方法の可能性の研究も必要だ。中間貯蔵期間を長くして、その間にさらに研究開発することも必要。100万年の期間を考える時、プラス100年はあまり変らないのではないか。 2日目は原産協会側から、「海外の状況および国内での議論」を紹介した。 この中で、海外調査を行って諸機関から出された有用な意見として、(1)1世代ですべてを決めないことが重要だ。2〜3世代の中で徐々に決定していくプロセスが必要。1つの世代で決定できることは、せいぜい100年程度の話だ。現世代がベストを尽くすことが基本だが、同時に将来世代の選択権を残すことが大切だ(2)次の世代に現世代の解決策を押しつけないこと、次世代が判断し決定する余地を残すことが重要(3)高レベル放射性廃棄物を地上に取り出せる“可逆性”の確保は、あくまで次世代に対し、少なくともいま考えられる最良の解決策「地層処分」を推進し、しかもその後の選択肢をオープンにしておくためだ──などを挙げた。 原産協会の会員企業や地方自治体の関係者からも、(1)地層処分する組織がいくらPRしても、それは仕事としてやっているので、国民の心には届かない。この問題を解決しなければならないことを国がもっと国民に向けて熱く語りかけることが必要(2)国が「国として処分場が必要なんだ」と明確なメッセージを国民に発信し続けることが重要(3)処分場の問題は、国策に伴う課題であり、市町村ではなく、都道府県が受け手の主体となって取り組むべき──などとする国などへの要望が出されている。 原産協会が2010年12月に行った高レベル放射性廃棄物シンポジウムでは、「国のトップである首相が47人の都道府県知事を集めて、この問題を解決する強い意見を伝え、知事が合意してから進めるべきだ」と強い指摘がなされ、その後、国が候補地を20〜30か所選定し、その中から絞り込んでいくプロセスが理想だという道筋が示された。 また、高知県・東洋町が立地候補地に応募して政治的混乱を招いた経験から、原産協会では「安心して頂くための冷静な議論の必要性」が是非とも必要なことを強調し、その社会環境をいかに構築できるかがカギを握るとしている。 「情報の理解」には、(1)感情的あるいは感覚的な理解と、(2)理論的な理解とがあり、前者は「自己の中にある思いと情報との共鳴によりなされる」とし、放射性廃棄物に対しては一般的に負のイメージがもたれており、そこに「死の灰」「廃墟」などの言葉(情報)を結びつけられると、一挙に受入れ反対の流れとなってしまうと指摘。一方で後者は、論拠を1つずつ積み上げていかなければならず、「一般の人々には取っつき難く、また理解までに時間がかかる」と説明した。 このような説明を聞いて、第2日目に学生達から出た意見は次の通り。 ▽核分裂生成物の分離・核変換の研究開発も課題として必要。工程表も作り、国としての責任を明確にしておいてほしい。 ▽一時的保管が最も国民に受容されやすい。可逆性を担保し、期間を明確にして保管すべき。地表保管の選択も。 ▽分離・核変換の研究開発がうまくいくまでは保管期間を延長していくべき。 ▽国有地の利用で、事業がスムーズに進む。 ▽教育で中立的な情報を出していくというが、中立とは立場を明確にしないということで、難しい。中立でなく「普遍的」ということが大事。賛否両論を記述し、情報を包括的に網羅するということが大切。 ▽市民参加は、どうすべきか。情報公開は、情報の質を担保するということ→市民にどう伝わっていくのか、どう伝えるべきか。広報をもっと強化すべき。 ▽市民と企業の間のつなぎが大事だ。民主主義社会なので、過半数をどう獲得するかだ。立地を考える期間は10年〜12年が適当だろう。 |
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