フェルゲート氏(WANO)に聞く 最悪への想像力必要 確率論より決定論適用すべし

日本原子力学会などが主催する「原子力安全国際シンポジウム」が10月末、都内で開かれ、福島第一発電所事故の教訓と将来をめぐって国内外関係者が意見を交わした。

原産新聞では、世界の120以上の原子力事業者で構成する「世界原子力発電事業者協会(WANO)」のマネージング・ディレクターとして参加したG.フェルゲート氏(=写真)に、事故の受け止め方などについて話を聞いた。

―福島第一原発事故に関連し、WANOにとり特筆すべき教訓は。

フェルゲート 今回、得られた最大の教訓はWANOの活動の焦点を切り替える必要があるという点だ。チェルノブイリ事故以後、運転経験の共有やピアレビュー等、WANOの活動の主眼は「事故の防止」にあったが、福島事故をきっかけに、「事故の防止」だけでなく「事故の防止と影響の緩和」に重点を置くべきだと認識した。WANOは福島事故後に設置した特別委員会での議論をもとに一層の安全性向上のための勧告を採択した。WANO活動の範囲拡大や、ピアレビューの強化、内部ピアレビューの実施などが含まれる。

―福島事故では当事者に何が欠けていたか。

フェルゲート 最悪を想像する力が欠けていた。発生確率自体は低いが甚大な影響を及ぼす事故に対する想像だ。確率論的手法には限界がある。確率論的手法を捨て決定論的手法を用いるべき対象がある。「最悪のケースは何か」を自らに問いかけることが肝要だ。例えば、機器保守の場面でも、「この機械のトラブルが引き起こす最悪の事態は何か」を考える姿勢を常に持つことだ。福島の場合は、「最悪のケース」に対する想定がなされていなかったと指摘できる。

―事故発生以降、海外から情報提供や協力要請が不足しているとの批判が向けられた。

フェルゲート その通り、日本は極めて内向きになっていた。WANO加盟事業者には事故情報を迅速に提供する義務があり、他の加盟事業者は継続して正確な情報を求めてきている。現在でさえも、東電や政府の事故調査・検証の状況の詳細が伝わってこない。事故から7カ月経過してもこうした状況だ。今後に向け、迅速な情報入手を確保するために、WANO加盟事業者と新しい取り決めを検討している。場合により政府との覚書が必要になるだろうが、過酷事故が発生した際には、WANOが現地の対策本部にオブザーバーとして加わり、事故対応に協力するというものだ。意思決定に参画するのではない。WANOとして可能なことを見出し協力していくためだ。

―近くストレステストに関する国際会議を開催するとのことだが。

フェルゲート WANOの根幹的要素は各国での経験を教訓として共有することにある。そのため、原子力発電運転協会(INPO)との共催で11月14日〜16日にアトランタで国際会議を開き、各国からストレステストへの取り組みを聞く。何を想定し、何が把握でき、どういう問題に直面したか――。先行しているEUのストレステストの報告をはじめ、他国からも同様のテストの状況を説明してもらう。当然、日本からも参加があるだろう。

―今後の安全性向上のためにも人材育成が重要といえる。

フェルゲート 安全性向上の側面においても、今後の原子力界の課題のひとつが次世代への確実な知識継承だ。「TMI」と言っても知らない若い世代が多い。人材育成も世界的に同質ではなく、各国の原子力発電の進展状況にも依存する。急激なペースで新規建設を進める中国や新規導入国での運転員の訓練は一層大きな課題となる。WANOは特に、新規運転開始プラントの運転員に対して、過去の重要事象の経験の継承を重要視している。そうでなければ、同じ過ちを起こすことにつながりかねない。


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