【2011年回顧】 長期的課題への取組を 将来に活かす「財産」に

本年も、年内最終号の発行となった。読者の皆様、ならびに、弊紙の取材活動にご協力・ご支援いただいた方々には、厚く感謝申し上げる次第である。

今年1年を振り返れば、3月11日に発災した東日本大震災の甚大な被害が筆頭にあげられよう。尊い命を失われた方々に、心からご冥福をお祈りするとともに、いまだなお不便な避難生活を余儀なくされている被災者の方々には、心からお見舞いを申し上げたい。

今回の震災では、12月5日現在、死者1万5841人、行方不明者3490人に上り、さらに、大規模な地震が引き起こした津波による福島第一原子力発電所の事故も加わり、9か月経過した今、国内全体で30万人を越す人々が避難生活を送っている。そのような状況下、被災地域の経済の再生、生活の再建に、総力を挙げて取り組んでいかねばならず、わが国は正に未曽有の国難に立ち向かっている。

さて、原子力界では今、福島事故への対応が喫緊の課題となっている。原子力災害発生後、事故の早急な収束に向け、政府・電力他、自治体、関係機関らが総力を結集し取り組んできた甲斐があって、当面の目標としていた炉心の冷温停止状態を達成しつつあるところだ。今後は、原子力災害からの復旧・復興対策、つまり、放射線量の測定、土壌汚染への対応、健康管理などに、引き続き努めていかねばならない。

申すまでもないが、事故発生により、放射性物質の環境への放出・拡散とともに、周辺立地地域住民が長期に避難・退避を余儀なくされ、農業・漁業に対する被害が拡大、国内のみならず、海外にも大きな影響を与えた結果、かつてないほど原子力に対する社会の信頼が揺らぐこととなってしまった。一方で、今回の大地震に伴う発電所被災により、大消費地への電力供給が停止したことから、計画停電が実施され、改めて電力の安定供給の重要性が浮き彫りになった。

7月に政府・エネルギー・環境会議は、「減原発依存および分散型エネルギーシステムへの移行」を旨とする中長期的なエネルギー戦略の方向性を打ち出した。原子力発電を長年にわたり受け入れてきた立地地域住民の困難な状況は計り知れず、その必要性については、様々な意見もあろう。現在、経済産業省では、来夏を目途に、エネルギー政策の見直しに向けた議論を進めているが、震災からの再生、復興を目指すわが国にとって、電力を始めエネルギーの安定的な供給は不可欠な要素であり、体系的に議論されないまま、脱原子力依存政策が進められていくとすれば、重大な支障となる。ぜひとも、国民負担と産業界への影響に加え、地球環境問題や安全保障など、長期的かつ総合的な観点からの検討が求められるところだ。

また、政府は、IAEAに対し、6月、9月の2回にわたり、福島事故の発生と進展、原子力災害への対応、そして事故から得た教訓を取りまとめ、提出した。既に、これらを踏まえ、原子力安全規制の充実、原子力防災対応の強化に向けた取組が動き出している。新たに発足する規制組織には、専門性、透明性、国際性を具備し、原子力安全の一層向上を目指し、その機能を発揮することが期待される。

一方、世界では、福島事故以降、わが国のエネルギー・原子力政策の行方について、懸念を含んだ関心が寄せられている。IEA(国際エネルギー機関)が11月に発表した「世界エネルギー予測」によると、世界のエネルギー需要は、10〜35年に3分の1増加、そして増分の約50%を中国とインドが占めるという。アジア諸国を始めとする新興・途上国においては、エネルギー・セキュリティの観点から、安全性を高めた上で、引き続き原子力が推進されることが見込まれる。福島事故以降も、これら新興国の日本に対する期待は、依然として高いと考えられ、わが国は、事故の原因を徹底的に究明し、その経験を活かし、さらに安全性の高い技術として、その協力要請に真摯に応えていく必要があろう。

「われわれは、時に、昔はよかったと思いたがり、いにしえに戻りたいと言いたくなることがある。確かにわれわれの先人達は偉大であった。しかし、先人の大きな働きがあったからこそ今がある。私は、そんな現在こそが人類の到達した最高点であると信じている」。これは、弊紙が、震災から約1週間後の号に掲載した連載コラム「論人」の一節である。INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)「レベル7」、国内原子力史上最悪の事故はもう起きてしまった。今後、大量の放射性廃液の処理、これに伴って発生する大量の放射性廃棄物の管理、汚染土壌や災害廃棄物の処理、使用済み燃料の搬出や損傷燃料の取り出し、廃炉措置など、長期的な課題に取り組んでいかねばならない。人類はこれまで、多くの人命の犠牲に学び、その悲しみに立脚し、科学技術を進歩させ、今日を築き上げてきた。被災地域の復旧活動も滞り、事故の調査・検証、既存プラントへの安全対策も中途の段階で、時期尚早かつ不謹慎かもしれぬが、前人未踏ともいえるこれら事故処理のプロセスは、将来に活かすべき「財産」としなければならない。


お問い合わせは、情報・コミュニケーション部(03-6812-7103)まで