【展望】歴史的な困難の中で 心を1つに「福島再生」を

「第2ステップが終わって、3月からは想像できないような状況が今ここにある」

政府が、福島第一原子力発電所の事故収束で、目標としてきた「冷温停止状態」を1か月前倒しで達成した12月中旬の直後、事故現場の福島第一原発で被災者でもある7人の発電所所員と懇談した細野豪志・原発事故担当相は、こう言って、体をはって事故収束作業にあたってきた職員達の9か月に及ぶ労をねぎらった。

2011年3月11日午後2時46分、世界的にも極めて稀な巨大海底地震「東北地方太平洋沖地震」(M9)が宮城県沖で発生、地震国の我が国でも、数百年から一千年に1回とも言われる観測史上最大の地震だった。

その地震の発生から約50分後、福島県双葉地方にある東京電力・福島第一原子力発電所や、そこから十数キロメートル離れた福島第二原子力発電所を最大15メートルにも及ぶ巨大津波が襲った。それは人類史上、最も頑丈に作ってあるはずの巨大工作物である原子力発電所にとっても、設計値の3倍という想像を絶する強力な破壊力を持ったものだった。

特に福島第一原発1号機から4号機は、外部電源だけでなく、津波によって非常用交流電源と非常用の直流電源さえも失う「ステーション・ブラックアウト」(SBO)状態に陥った。その後の経過は、世界でも初めての原子炉3基ほぼ同時進行の炉心溶融と、相次ぐ水素爆発という過酷事故となった。

そこから放出された放射能は、少なからず東日本の広い範囲に及び、福島第一原発から半径20キロメートルおよびその北西方向の飯舘村までは「避難区域」となった。臨時立ち入りを除き、いまも11万人が避難せざるを得ない状態が続いている。

昨年末の政府の事故収束宣言で野田佳彦首相は、「福島の再生なくして、日本の再生なし」とあらためて強調した。福島県内では、除染モデル事業に続いて、今後本格的な国を挙げた除染活動が開始される。雪が積もると除染活動は一時停滞することになるが、原子力関係者はもとより国民みんなが「地域に寄り添う」気持ちは1つだということを忘れないでほしい。

事故発生後、民主党政権は「減原発依存」を目指す方向性を打ち出し、総合資源エネ調査会や原子力委員会に、いままでの方向性を再検討するよう指示している。

その検討のベースとして、エネルギー・環境会議の下に設置したコスト等検証委員会は昨年末、福島事故の損害賠償額などがいまだ定まっていないという条件ながら、事故リスク対応費用5.8兆円を盛り込んでも、原子力発電はいま時点で最も安価な発電源であり、2030年時点でも、立地条件の良い風力発電とは肩を並べる可能性はあるものの、その他の各種電源より安価であるとの結論を導き出した。

その上で、今後、エネルギー需給構造の検討が本格化し、春にはエネルギー戦略の選択肢を提示し、国民的議論の帰趨を踏まえて、夏にはいまのエネルギー基本計画に代る「革新的エネルギー・環境戦略」を決定しようとしている。

エネルギー確保は、その国の最重要政策の1つであり、産業発展と国民生活の基盤である。その中でも電気は、だれでも安全で安心して使えるエネルギーだ。エネルギー資源の乏しい我が国にあって、原子力発電は長期に安定した電力を供給し続けてきた。そのエネルギーをさらに確固なものとして“準国産エネルギー”とするために、核燃料サイクルの確立を目指してきた。非核兵器国で、日本だけが歩み続けてきた道でもある。

今後、その電気を確保するために、原子力発電はどこまで、その責任を果たせるのか。また、国民からどこまで信頼を得ることができるのか。今回福島では未曾有の大震災によって、安全確保の大前提が大きく崩れたとはいえ、福島事故の教訓を活かし、さらに安全な原子力発電所の建設は可能だと信じる。発展途上国など原子力発電所の新規導入を目指す国々からの日本技術への熱い期待は、福島事故後も変ってはいない。

いま、世界の民間電力会社の中でも最大級の東京電力が、福島事故の対応で、経営的にも苦しんでいる。同社は事故の翌日から、本社屋上に掲げていた日の丸の国旗を掲げていない。電力供給体制の見直しも検討されている中で、この苦難を乗り越え、電力供給の担い手として、再び十分な責任を果たせるよう体制を整え、国民に向かって日の丸の旗を再び掲げられる日がくることを願う。

共に電力を安定供給し、国の経済成長を支えてきた他の電力会社も、原子力発電所の再稼働が安全確認のために遅れ、電力供給に十分な態勢を組めずにいる。

国力の維持、安全保障の確保などの方向性は、時の政権を担う政治家の方々に最終的な判断をゆだねる以外にはないが、原子力関係者がいまなすべきことは、「福島の再生なくして、日本の原子力の再生なし」との強い思いで心を1つにし、今後の困難な課題に全力で取り組むほかに、国民の信頼を勝ち取る方法はない。


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