事故の本質は「津波・電源喪失」 原子力技術協会が政府・事故調に意見書 事故以前の対策不備を指摘 全体俯瞰した評価要請

一般社団法人・日本原子力技術協会は、政府の福島原子力発電所事故調査・検証委員会が昨年末に発表した中間報告について、同協会としての意見を取りまとめ、同事故調に提出した。「福島事故の本質的な問題は、事故発生後の運転員や緊急時対策本部の対応に問題があったというより、自然条件(津波)と電源喪失の想定が結果的に誤っていたため、事故以前に適切な対策が取られていなかったことにある」と指摘している。

意見では、同委員会の綿密な調査に対しては敬意を表しながら、中間報告では、(1)報告書全体の記載バランスが欠けており、正確な事故状況が伝わらない(2)調査不足箇所や不十分な調査予定箇所がある(3)過去の背景要因分析が不十分な箇所がある(4)論理的分析に基づかない提言や実態にそぐわない提言がある──などと指摘、具体例を示して、最終報告ではより徹底した調査・検証を求めた。

記載バランスの点では、(1)オフサイトセンターの機能が喪失したことで、事故対応能力が大幅に失われた事実は記載されているが、その影響についての評価がなされていない(2)新潟県中越沖地震の教訓を踏まえ設置された免震重要棟は、オフサイトセンターが機能喪失した中で、事故対応の拠点として、また宿舎として役立ったが、ほとんど評価されていない(3)発電所から大量の放射性物質が最初に放出された3月15日夜、浪江町赤字木地区で330μSv/hの放射線量率を検出した後、この情報を元に政府は地元自治体や住民等に対し、どの様な対応をとったのか記載されていない──などと指摘。

一方、記載量が多い事例としては、(1)1号機非常用復水器(IC)の作動状況の誤認や3号機の代替注水失敗について多くを記載しているため、福島事故の本質が見えにくくなり、結果として事故の全体像の把握をゆがめかねないものとなっている、としている。

調査の充実では、2001年の9・11の後、米国で取られた原子力発電所へのテロ対策(B・5・b)について、他の多くの国でこの対策が反映されたようであるが、我が国では対応しておらず、なぜ対策を反映しなかったのか、調査・検証が必要だ、と主張している。

論理性の確立では、「1号機の非常用復水器の作動状況について発電所対策本部内で誤認していたことは事実とみられるが、照明、通信手段、直流電源を失って、計器も読めず、マニュアルもない状況で緊急事態が進展する中、当日の夜中にやっと計器用小型バッテリーを準備して一部のデータが確認できたのが実態である」と説明し、この時、すでに炉心は露出していたと評価されている中で、「誤認がなければ事故経過が好転する可能性があったのか、冷静に判断する必要がある」と強調。報告書では「あたかもICの作動状況誤認により事故が発生したかのように結論付けられ」ていると指摘した。


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