地層処分研究の現状 地下300m以深の世界 未知の研究事業に挑む

日本原子力産業協会が実施した「高レベル放射性廃棄物地層処分に関する勉強会」に参加した大学生などが3月上旬、北海道最北端に近い原子力機構の研究施設「幌延深地層研究センター」を見学した際、同行取材した。福島事故後、高レベル廃棄物の地層処分場立地をめぐる状況は凍結状態が続いているが、地層処分に向けた研究開発は着実に進んでいる現状を紹介する。(河野 清記者)

羽田空港からは天候によっては引き返すことを条件に、1日1往復の飛行機は離陸、2時間後に稚内空港上空に予定通り到着したものの、滑走路の除雪のために上空を旋回すること約1時間。やっとのことで着陸するも、風雪共に強く、迎えてくれたバスの運転手は一言、「よく着陸できてよかったね」だった。

2月ほどではないにしても、最低気温がマイナス10℃程度、最高気温ですら0℃を下回る。屋根からぶら下がるツララが1メートルにも達し、しかも強風で一定方向に湾曲していた。稚内からはバスで約1時間南下したところに幌延深地層研究センターはある。日本海側からも十数キロメートル内陸だ。

高レベル放射性廃棄物の地層処分研究を進める原子力機構には、比較的柔らかい堆積岩の泥岩を対象とするここ幌延深地層研究センターと、固い結晶質岩の花崗岩を対象とする瑞浪超深地層研究所(岐阜県瑞浪市東濃)がある。

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いままでの世界的な研究開発の結果、高レベル放射性廃棄物の地層処分システムの概念はほぼすでに固まっている。

使用済み燃料を再処理工場で再処理(分離)し、ウランやプルトニウム、燃料を覆っていた被覆管などを取り除いて出てくる最終的な核分裂生成物(FP)をガラスの中に溶け込ませて、ステンレス製の容器「キャニスタ」内で固化する。これがガラス固化体だ。高さ1.34メートル、外径43センチ、約500キログラムある。

英仏に再処理委託して日本に戻ってきたガラス固化体が青森県六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物貯蔵施設に、日本で再処理されたガラス固化体が、茨城県東海村に貯蔵保管されている。

地層処分概念では、数万年以上にわたる超長期の放射能管理や社会の変化を予測することは人間には無理なことから、人間による管理の手を離れてからも問題のないような処分方法を考えるという思考方法を採った。その結果、これらのガラス固化体を、さまざまな条件を総合的に満たした地下300メートルよりも深い地層の天然の岩盤(天然バリア)に埋め込むことを考えている。

その際には、ガラス固化体をさらに炭素鋼などでできた金属容器の「オーバーパック」の中に入れ、発熱や放射能が高い期間、地下水とガラス固化体の接触を阻止する。その外側には透水性が低く膨潤性の高い粘土の1種「ベントナイト」で囲み、地下水や微生物、放射性核種などの移行を妨げる緩衝材とする。これらの人工物を人口バリアと言い、天然バリアと人工バリアを合わせて、ガラス固化体を数万年オーダーの超長期にわたって安定的に処分することを考えている。

原子炉の中で核分裂して生じた核分裂生成物は数万年を経ることによって、核燃料1トンUから発生するガラス固化体1本が、その燃料製造に必要だったウラン鉱石約750トンのもつ放射能量と同程度にまで自然減衰する。

数万年の年オーダーを考えることは、工学の世界から地質学の世界へと分け入っていく感もあるが、今から数万年前と言えば旧石器時代のクロマニヨン人が洞窟壁画などを描いていたとされる時期であり、1万年前には最終氷河期が終わり農耕が開始された時期とも言われている。

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日本の地質は、大きく分けて、花崗岩などの結晶質岩と泥岩などの堆積岩に分けられる。従って、原子力機構はその代表的な2地点で地層処分の研究を行っている。

幌延町における深地層研究については、最終的には2000年11月に旧科学技術庁の原子力局長の立ち会いの下に、旧核燃料サイクル開発機構と北海道、幌延町の3者が締結した「幌延町における深地層の研究に関する協定」(3者協定)に基づいて行われている。

同協定では(1)同研究実施区域には、研究期間中はもとより研究終了後も放射性廃棄物を持ち込んだり使用しないこと(2)放射性廃棄物の最終処分を行う実施主体への譲渡・貸与はしない(3)研究終了後は、地上施設の閉鎖、地下施設を埋め戻すこと(4)同区域を将来とも放射性廃棄物の最終処分場とせず、幌延町に放射性廃棄物の中間貯蔵施設を設置しないこと(4)雇用その他を地元優先で行うなど地域振興に積極的に協力すること──が明記されている。

幌延町内では、全域の文献調査から始めて、地表地質調査、物理探査などを経て、実際のボーリング調査、詳細検討を行って、現在の研究施設の設置場所、おおよそ3キロメートル四方を決定した。

地下施設の全体構想では、東立坑、西立坑、換気立坑の3本を地下約500メートルまで掘り、350メートルと500メートル地点に横に8の字型の周回試験坑道を掘る計画だ。

現在の進捗状況は、東立坑(内径6.5メートル)と換気立坑(内径4.5メートル)が地下350メートルまで達し、地下140メートル地点と250メートル地点に横方向に調査坑道が掘られている。西立坑(内径6.5メートル)はまだ50メートルしか掘られていない。今年2月からは民間資金活用(PIF)事業として大成建設、大林組、三井住友建設によるジョイント・ベンチャーが事業を支えている。

現在の調査は、各深度の地質、地下水の量や成分、トンネルを掘ったことによる周りの岩圧の変化、擁壁に塗る低アルカリ性セメント材の研究などを行っている。特に同地点は昔、海底にあったことから塩分を含む地下水が漏出し、有機物の化石なども多く出てくるのが特徴だ。

地下250メートルと350メートル地点の間には3本の帯水層があり、(1)高透水性ゾーンの存在(2)塩水系地下水中の溶存ガス(主にメタン)(3)堆積軟岩中の大深度掘削──などの研究経験を積むことができる。

地下施設の見学では、2班に分かれて東立坑の8人乗りのエレベーターで地下140メートルの調査坑道まで降りた。地下は深くなるほど地温が高くなるので、地下空間も暖かいと想像するが、実際は換気のため地上の空気が送り込まれてくるため暖かくはない。

今後の計画としては、この2月からPIF事業として第2期整備工事に着手し、2014年3月末までに、東西と換気立坑の3本を深度約380メートルまで掘り進み、地下350メートル地点の8の字型の周回試験坑道までを整備する計画だ。

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同研究センターでは、掘削工事を交代勤務体制で鋭意進めているものの、地層処分研究の最前線を実際に目で見てもらうために、受入れ人数を制限しながら、第4日曜日と火曜・木曜日(4月〜10月)、木曜日(11月〜3月)に事前申し込み制で地下140メートルの調査坑道まで見学できるコースを用意している。

地上施設のPR館「ゆめ地創館」は毎週月曜日と11月〜3月の火曜日の休館日、年末年始を除いて事前予約なしで自由に見学できる。

岐阜県瑞浪市東濃にある瑞浪超深地層研究所では、これらのPR施設がなく、研究施設の片隅を利用して展示物を置いている程度で、地下への見学も掘削作業や研究工程の合間をぬった限られた時間を利用したものに制限され、実坑道の見学を希望する関係者には不満が残る状況が続いている。

瑞浪研究所では、幌延センターより深さが2倍となる地下1000メートル地点まで掘り下げ、研究施設を設ける構想を持っており、現在、地下約500メートルの中間ステージまで掘削作業が進んでいる。

[お守りになる「貫通石」]

岐阜県にある瑞浪超深地層研究所の主立坑と換気立坑を地下400メートル地点で横につなぐ研究坑道の掘削工事で、最後の貫通地点から掘られた「貫通石」=花崗岩。貫通石は古くは神話の神功皇后の言い伝えから、「安産のお守り」として珍重されてきた。今日では、「石(意志)を貫く」ことから、合格祈願や結婚記念などのために、人気があるという。


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