今井原産会長 国の成長に不可欠 「原子力の必要性確信」

昨年の東日本大震災から1年余りが経過したが、東京電力福島第一原子力発電所の事故により、いまだ多くの人々が、不自由な避難生活を余儀なくされておられる。

原子力の平和利用を推進してきた立場の者として、心からお詫び申し上げ、1日も早い被災地域の復興と、避難されている皆様のご帰宅を、心よりお祈り申し上げる。

この福島第一原子力発電所の事故は、わが国の原子力安全に対する信頼を、根底から覆すとともに、世界の原子力開発に大きな影響を与えた。わが国の原子力関係者は、「福島の復興なくして日本の原子力の将来はない」との強い決意のもとに、福島事故で被害に遭われた周辺市町村の復旧・復興、ならびに福島第一原子力発電所の廃止措置に向け、全力を傾注していかなければならない。

それと共に、今後、世界のいかなる場所においても、また、いかなる天変地異があろうとも、再び同様の事故が発生することのないよう、事故の経験と教訓を世界と共有して、安全対策の徹底および透明性の一層の向上を図り、失われた信頼の回復に努めなければならない。

私はこれを、今後のエネルギー・原子力政策の出発点として、認識すべきと考える。

福島の復旧・復興にあたっては、被ばくの低減を図るために、まず放射性物質で汚染された環境の除染が課題となる。

また、除染作業に伴う被ばくや、除染作業によって発生する放射性廃棄物の仮置場や中間貯蔵施設の設置も、解決しなければならない課題だ。

このような課題の根源には、放射線被ばくに対する不安という問題がある。中でも、低線量被ばくの影響については、専門家の間でも見解がまちまちであり、住民がどの見解を信じて良いのか迷われ、心理的な負担になるとともに、復旧・復興に向けた対応の進捗が遅いことに苦しんでいる。

こうした中、国は、食品中の放射性物質の新たな基準値として、放射線防護上、十分すぎるくらい厳しい基準を定め、今年度から適用を始めた。

それにも関わらず、食品の生産、流通等の現場では、より安全なものを選びたいとの消費者の要望に応じて、さらに厳しい独自の基準を設ける動きもある。こうした動きは食品だけでなく、震災がれきの受入基準など、他の分野でもみられる。

この背景には、事故発生以降、放射線被ばくに関する基準や説明を巡ってさまざまな混乱があったことで、国や専門家に対する信頼が大きく揺らいだことも、影響しているのではないだろうか。

こうした、さらに低いレベルの基準を設けようとする傾向は、今後、過大な社会的負担を強いる結果となり、さらには風評被害を拡大し、復旧・復興を遅らせることになりかねない。

国をはじめ関係者には、このことをよく肝に銘じ、新たな基準値を守ることでリスクは十分に小さくなるということを、ぶれることなく、ワンボイスになって、積極的かつ丁寧に説明するようお願いしたい。そして、新たな基準を適切かつ厳格に運用し、国民の皆さんの不安を取り除くよう、努力していただきたい。

福島の方々が今後住み慣れた故郷に戻られ、安心して暮らしていただくためには、福島第一原子力発電所の廃止措置が、安全にしっかりと行われていくことが重要だ。

廃止措置については、これから40年もの歳月がかかると言われている。メルトダウンした燃料を、どのように安全に取り出し、廃炉までもっていくか、新たな技術開発が必要であり、膨大な人と資金が必要になる。

従って、これを日本一国で行うのではなく、世界の英知を集め、世界に開かれた、国際的なプロジェクトとして推進し、その成果を世界と共有して、原子力技術の発展に貢献すべきと考える。

このことについては、福島に廃炉に関する国際的な研究拠点を整備する検討が、すでに開始されている。福島に研究の国際拠点を作り、世界との人的交流を深め、福島が廃炉技術の発信基地となることは、福島の復興にも役立ち、また世界的な原子力人材の育成にも、繋がっていくことが期待される。

国内の原子力発電所に目を転じると、現在、ほとんどの発電所が定期検査を終え、再稼働ができないまま停止している。

わが国の原子力発電所54基の内で稼働しているのは、北海道電力の泊発電所3号機のみで、この3号機も5月5日に定期検査のため停止すると、運転中の原子力発電所はゼロになる。

この影響で、各電力会社は、原子力発電所で発電できない供給力のほとんどを、火力発電で賄うことになり、わが国の火力発電への依存度は、約90%にもなろうとしている。世界的な化石燃料の需要増や、中東の政治情勢の悪化による燃料費の高騰とも相まって、電力会社の燃料費負担が急増し、財務状況を急激に悪化させている。この状態が続けば、燃料費負担増は、今年1年間で3兆円以上との試算も出されている。

このような発電用燃料の輸入増加は、貿易収支の赤字の主要因ともなり、わが国の国力、国益にも大きな影響を及ぼすことが懸念される。

また、今年の夏が2010年のような猛暑になった場合、夏季需要のピーク時には、全国平均で約10%の電力供給力不足になるとの国の試算があり、予断を許さない状況だ。

今後、国には、原子力発電所を再稼働する必要性を社会に丁寧に説明し、周辺地域をはじめとする国民の皆様の理解を得て、速やかに、再稼働に向けたご判断をお願いしたい。

エネルギーは、国民生活や産業・経済活動の基盤をなし、正に国の根幹を左右する。

事故の教訓を活かした安全性の向上を最優先に、透明性を一層向上させて、失った信頼を回復していくことが、大前提となる。

多くの国が、エネルギーの安定確保と地球温暖化対策の観点から、引き続き、原子力の開発を進めていくとの方針を打ち出している。また、今後、新たに原子力発電の導入を計画している国々から、わが国が有する技術力による支援に対して、強い期待が寄せられている。

原子力産業界は、この役割と責任を自覚し、世界からの期待に着実に応えていく必要がある。


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