「教訓こそ今後に活かせ」 TMIに関わった弁護士が明言

福島事故後、ドイツのように脱原子力に再び舵を切った国々がある一方、世界全体で見ると、原子力の拡大傾向は続いている。そうした中、今後世界の原子力発電プロジェクトにはどのような変化が予想されるのだろうか。

原産新聞はこのほど、世界の原子力ビジネスにも詳しいピルズベリー法律事務所で国際原子力プロジェクトチームのリーダーを務める弁護士G.ボロバス氏(=写真)に話を聞いた。

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ピルズベリー社は1979年のTMI発電所事故に関わった経験があり、事故後、米国の原子力界がどう変わったかを目にしてきた。教訓として、米国の原子力界は、産業界同士や規制者とのコミュニケーションの深化や、NRCの検査プログラムの構築等を行ってきた。これらが重要な展開だった。今後のために、信頼の回復、原子力界の体制再構築を目指している日本の原子力にとっても、これは重要な先例となるだろう。

ドイツのように原子力発電を放棄したり計画を延期した国もあるが、世界の原子力をマクロで見れば福島事故後も大きな変化はない。建設工事や建設計画が福島事故後も継続している。多くの国が原子力発電に期待しているのは、基本的には、安定した電力供給が可能であり、国家・経済の安全保障や温室効果ガス削減の観点からだ。

確かに、福島事故は原子力界にとっての「警鐘」となった。既存の計画の変更やコストの増加等につながるかもしれない。コスト増の可能性としては原子力損害賠償への対応が挙げられる。企業はこの点を今後、懸念するだろうし研究もするだろう。我々の経験でも、損害賠償問題は難しい交渉ポイントとなった。大きな状況の変化にも適合できる柔軟性のあるプロジェクト構造を作ることが今後の原子力発電プロジェクトにとって重要となる。ファイナンスや人材確保・育成等は、福島事故以前から世界の原子力産業界が直面している課題である。

原子力はグローバルな産業であるが、福島事故の影響のひとつとして、今後一層、国際的な対話と協力が増加することが考えられる。また、国際的な枠組みにも変化を与える可能性もある。例えば原子力安全条約や原子力損害賠償条約。福島事故後の変化が、国際法、国内法、そして個々の原子力プロジェクトにいかに浸透していくかに注目しているところだ。

安全対策の強化が原子力発電コストを圧迫するのではとの懸念もあるが、TMI事故後の米国の状況を考えてみるとよい。事故以降、米国の原子力産業界は安全性への意識をより高く持つこととなった。従来とは違う手法を採用して発電所の運用を行い始めた。その結果、以前より収益性が向上した。

安全面への一層の配慮や注意を向けることで、プラントをより長期間運転することへの意識向上と取り組みが行われ、それによって、結果的により多くの電力を生産することとなった。安全対策の強化と収益性は両立するものだ。

だが、今後の原子力発電もコスト面での課題は大いにありうる。新規建設について言えば、最新の技術を導入しようとしているプロジェクトも多い。特に初号機の建設には予測の難しさも伴う。どれほどのコスト増につながるか明確でないところもある。例えば、フィンランドのオルキルオト発電所計画がその典型的な例だ。

最初の技術に基づく新規建設計画を成功に導くには、ベンダー、発電所運転者、所有者、金融機関の協力により、リスクやコストの最小化をはかることが一層重要になるだろう。


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