岐路に立つ日本の核燃料サイクル 国際的視点が不可欠 細野大臣の依頼で検討 遠藤哲也(元IAEA理事会議長)

【原子力政策の見通しと報告書作成の経緯】

日本は、1950年代の原子力の黎明期から、核燃料サイクル(クローズド・サイクル)の独自の国内的な確立を原子力政策の目標として、これを追求して来た。しかし、莫大な資金と人材を投入したにもかかわらず、サイクルの中核事業である六ヶ所再処理工場も高速炉「もんじゅ」も計画通りに進んでいない。

3・11の福島原発事故後、日本では「縮原発依存」を軸に原子力政策の大幅な見直しが行われようとしているが、状況は混沌としており未だその行方は見えていない。その一環として、核燃料サイクルについても徹底的な見通しが迫られており、特に上述のような事情があるだけに何らかの対策をとることは必至である。サイクルは岐路に立たされていると言える。サイクルの見通しについては、目下原子力委員会の新大綱策定会議でもとりあげられており、使用済み燃料の「全量再処理」、「全量直接処分」「両者併存」のシナリオについて、主としてコスト面からの検討が行われている。経済面からの検討はもちろん重要だが、サイクルはもっと広い、かつ国際的(グローバル)な観点から検討が加えられ見直しが行われるべきだというのが、筆者の思いである。

今年の初め頃、同じような考えをお持ちだったと推察するが、細野原子力担当大臣より筆者に対し、そのような広い面からサイクルを検討してくれないかとの依頼が寄せられた。

そこで、筆者は原子力の国際分野での経験が豊かで、かつサイクルには直接利害関係のない有識者にお願いして研究会を組織した。筆者を座長に谷口富裕(前IAEA次長)、山地憲治(地球環境産業技術研究機構理事・研究所長)および秋山信将(一橋大学准教授)の4名である。研究会は細野大臣の全く私的な勉強会ともいうべきものである。

研究会は、2月から4月末にかけて平均週1回位の頻度で会合を開いた。会合には上記4名の他、アド・ホックに2、3の専門家にリソース・パーソンとして参加してもらい、細野大臣御自身もオブザーバーとしてかなり頻繁に出席された。その結果をとりまとめ、5月25日に中間報告書(標題:核燃料サイクルの検証と改革――原発事故の教訓とグローバルな視点の導入)として提出するとともに、原子力委員会の大綱策定会議が中断状態にあったので、6月9日の委員会の定例会議に筆者より報告するとともに、提言に対し前向きの検討をお願いした。

【中間報告書の提言の概要】

中間報告書は、核燃料サイクルの放棄とか、サイクルの推進とかを前提とせず、その議論はとりあえず棚上げして、核燃料サイクルの検証、(抜本的な見直し)、改革の途を現実に即して検討しようとするものである。中間報告書に盛られた提言は次のようにまとめられる。

第1は、核燃料サイクル見直しの基準である。サイクルを使用済み燃料の直接処分であるワンス・スルーと比べる場合、何を基準とするかで、これまでは経済性、すなわちコストに大きなウエイトが置かれていた。それが、再処理か直接処分かの選択の大きな基準とされていた。経済性はもちろん重要な要素であるが、より広い、グローバルな視点が導入されるべきである。例えば、再処理、高速炉の技術的可能性、エネルギー安全保障、国際的な核不拡散や核セキュリティー、環境負荷などが比較の基準に入れられるべきである。加えて、変動する国際政治、国際経済を見据えながら、エネルギー・産業技術などの国家基盤のあり方など国力の観点からも検証することが必要である。

また、核燃料サイクルを見直す中で、六ヶ所における濃縮・再処理事業や「もんじゅ」事業が計画通りに進んでいない現実から目をそむけるわけにはいかない。日本原燃及びJAEAが進めて来たこれら事業の経営ガバナンスの改革が一定期間内に実行可能であろうか。これらも検証・改革の対象である。

第2は、こうした検証・改革の進捗を踏まえ、核燃料サイクルの「国際化」の可能性を探ることである。そもそも、原子力は国際的なもので、「一国主義」では成り立ち得ないものである。現在の六ヶ所の再処理や、「もんじゅ」事業では経済性1つをとっても国際化などありえず、国際化を論ずるには足元をしっかりと固めることが先決である。なお、国際化については、国際的な核燃料供給体制への貢献、高速炉の国際共同研究開発、原発新規導入国への「3S」基盤の提供、六ヶ所再処理工場の国際的利用などが主要な論点になって来ようし、国際化のスコープとしても、グローバルな枠組みとするか、地域的な枠組みとするか、パートナー国をどのように得て如何に協力するかなどについて検討を進める必要がある。なお、国際化の検討にあたっては地元の理解を得ることが重要なのは言うまでも無い。

第3は、検証・改革に許される期間についてである。その期間はせいぜいが3年位と思われる。その期間内に、日本原燃およびJAEAなどの事業推進体制を刷新し、同時に技術問題を克服して今後の事業の可能性を見極めなければならない。特に経営ガバナンスの検証・改革は1年を目途に少なくとも方向を決定すべきである。こうした改革の進捗や国際社会のニーズを踏まえて、核燃料サイクルの「国際化」に向けた具体的な検討を進めなければならない。

なお、これらの取組みについて、この期間内に目に見える進展がなければ、日本の核燃料サイクルの展望は開けないと覚悟すべきである。

【今後の課題】

この報告書は、文字どおり中間報告書であり、総論である。最終報告書は来春頃を予定している。今後の課題は、まずはここに掲げられた提言を具体化することであるが、何よりも8月に予定されている環境・エネルギー閣僚会議の方針をとる必要がある。1つには、核燃料サイクルの各問題について検証・評価を行い、改革の途の有無を探ることである。特に経営ガバナンスについては、思い切った対応が必要である。2つ目は、「国際化」である。当然のことだが、これは日本一国でやれることでなく、パートナー国、IAEA、米国、フランスなどとの十分な意見交換が必要である。従って、まずは、現実的ないくつかのシナリオを想定し、これに基づいて関係先と率直な話合いをするべきであろう。時間のかかる問題である。第3は、3年の期限である。これについては、退路を絶たれたものとの覚悟で臨むべきであろう。

この中間報告書は2018年に期限の到来する日米原子力協定に触れていない。その理由は、1つには核燃料サイクルについての日本の立場が固まっていないこと(ちなみに、日米協定はサイクル協定でもある)、今一つは米大統領選挙の行方、2014年に期限の来る米韓原子力協定の帰すうなど国際情勢を注視する必要があると考えられたことである。しかし、最終報告書では本件に触れたいと考えている。また、日本が国外に保有する大量の分離プルトニウムは国際的な関心を呼んでいるので、この削減ないし、削減への方向について明らかにしてゆくことが大切で、これは日米原子力交渉の問題点の1つになるかもしれない。


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